“頭のカタい上司”を説得するよりも……
粉川 皆さん、私よりも何百倍もの経験、過去のいくつもの成功体験がある方々なので、最初は自分の意見を言うことがあまりできなかったんです。そうすると「じゃあセオリー通りこうしましょう」と、流れ作業的に仕事が進んでいっている雰囲気は正直ありました。
ただ、「これじゃだめだ!」と勇気を出して「新しいことをやってみたい」とか「こういうことをやってみたいので、教えてください」と相談すると、「じゃあこれはこうしましょう」「普通はこういうことはしないけど、この形態でもいいんじゃないですか?」と提案してもらえることも多かったです。『ストールンプリンセス』の委員会の方々は「もっとこの作品を広めていきたい」という思いが共通していました。
とはいえ、この業界にいて頭の固い人に会ったことは何度もあります。そのうえで今回わかってしまったのは、人を説得するよりも、自分でやったほうがはるかに楽ということですね。いまは自分ひとりでやっているぶん、いろんな壁にぶち当たって大変ですが、会社員だったころの上司を説得する大変さと比べたら、よほど楽です。
頭の固い人を説得できないと、そこで諦めてしまったり、やる気をなくしてしまったりすることもあるじゃないですか。そして、不満がたまって、飲み会で業界の愚痴をしゃべる……みたいな。そういう環境でやっていくよりは、自分でやるという道を選んだほうが私はいいと思っています。
——ただ、独立にはリスクも伴いますよね。「大コケしたらどうしよう」など、転ばぬ先の杖がない状態に不安は感じないですか?
粉川 不安はもちろんあります。だから「コケてもここまでは砂が敷いてあるから大ケガにならないな」という、大丈夫な範囲をしっかり見極めることが大事だと思います。
会社を立ち上げるにあたって、これまで衰退していってしまった映画配給会社がなぜそうなったのかを調べてみたんですよ。そしたら、みんな「成功したらさらなる山に登りたくなる」ということがわかりました。どんどん大きな山にチャレンジしちゃうんですよね。
私の会社では、しばらくは『ストールンプリンセス』が最大の山です。小規模作品を中心に取り扱うと、自分の目でいい作品を掘り出さなきゃいけない苦労がありますが、それでも最初は安全な道を選びます。
——男性社会といわれることも多い映画業界ですが、苦労してきたことはありますか?