いよいよプロ野球開幕の季節である。といっても、昨年から問題となっていた読売ジャイアンツの選手たちによる野球賭博の問題のせいで、どこか燻った空気が漂いながらの球春到来な印象がある。
つくづく思わされるのは、自分が人生を賭けて生業としてきた競技をも賭けの対象としてしまう、ギャンブルの魔性だ。そして、この魔性の落とし穴に一度でもハマり込んでしまうと、そこから抜け出すのはなかなかに難しい。
今回取り上げるのは『難波金融伝 ミナミの帝王―劇場版X VII―プライド』。本作では、野球賭博で全てを失った元プロ野球選手の人生が描かれる。
かつてストッパーとして豪球で鳴らした山村(苅谷俊介)は、引退後に野球賭博にのめり込み、借金まみれになったところを、大阪ミナミで金融業を営む主人公・萬田銀次郎(竹内力)の力で救われた。その後は、夜はタクシー運転手で稼ぎながら、昼は少年野球の監督に勤しんでいた。
山村はチームのエースである少年の才能に惚れ込んでいた。だが、少年は父親(山田辰夫)の借金のため夜逃げしなければならなくなる。少年の力で大会を勝ち上がることを夢見ていた山村は、娘のためにとっておいた定期預金と銀次郎から借りた金を父親に渡してしまう。だが、父親は借金を踏み倒し、蒸発した。
「母ちゃんだけじゃなくて、私まで野球の犠牲になるん?」娘はそう嘆いた。山村の妻は野球賭博のために働きつめ、過労で死んでいたのだ。
「賭博」という行為だけではなく、実は「野球そのもの」に魔性が潜んでいるのではないか――。本作を見ていると、そう思えてきてしまう。
山村は賭博から足を洗った。だが、今度は監督として勝利のために生活の全てを野球に注ぎ込み、再び借金まみれになる。「勝敗に金を賭ける」か、「勝利に生活を賭ける」か。対象と手段に違いはあるが、「野球に賭ける」ことに変わりない。そして、いずれも待ちうけるのは身の破滅だ。それでもなお、一度この競技の魔性に憑かれてしまうと見境を失い、熱情を注ぎ込まずにはいられなくなってしまう。
それは山村だけではない。少年の父親が借金を作った理由もまた、野球賭博だった。そして山村の娘も、少年のボールを受けるとその才能に納得し、彼が自らを危機的状況に陥れた遠因であるにもかかわらず、応援するようになる。
登場人物の誰もが、野球に魅入られ、野球のために不幸になっていく。それでも抜けられない。まるで中毒患者だ。
筆者もまた、贔屓チームの応援に多くの時間と労力を無為に費やしてきているだけに、身につまされるものがあった。