11月18日に選挙取材歴25年を超えるフリーランスライター・畠山理仁を追ったドキュメンタリー映画『NO 選挙、NO LIFE』が公開された。
候補者の街宣を分刻みで巡るため睡眠時間は平均2時間で、本業である原稿書きもままならず、経済的に回らないという本末転倒な生き方を続けてきた畠山氏の情熱と苦悩に迫った――。
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選挙期間中、立候補者全員に直接取材
唯一無二の選挙取材者だといえよう。
フリーライターの畠山理仁(はたけやま・みちよし)が25年間、選挙を追い続けてたどり着いたのは、だれも真似しないし、真似できない選挙報道だ。あたかも、ガラパゴス諸島で独自の進化を遂げたアシカやペンギンのようなものか。いやいや、羽が小さく飛べないために絶滅の危機に瀕している沖縄のヤンバルクイナの方が近いだろうか。
人生の半分を選挙取材に捧げてきた畠山がこだわるのは、選挙期間中に、立候補者全員に直接取材し、その政策を記事に盛り込むという、自分自身に課した約束事だ。
映画が焦点を当てるのは、22年の参議院選挙における東京選挙区と、同年の沖縄県知事選挙だ。
東京選挙区には6人の当選枠に34人が立候補していた。新聞やテレビがカバーするのはせいぜい主要候補10人程度。しかし、畠山は、候補者一人ひとりの政策に耳を傾ける。
「立候補して訴えたいことを、聞かせてください」と。
選挙は宝探し
候補者たちは、同性婚の法制化や沖縄にある米軍基地を東京に引き取ること、既存の政治家の議席を減らすこと――など多種多様な政策を畠山に向かって訴える。
なかには、自分は超能力者で、その能力を使って日本の経済をよくしたいと語る候補者もいる。普通の記者なら、尻尾を巻いて逃げだしそうな告白を聞いても、畠山はひるむことなくこう尋ねる。
「どうやってそんな能力に気づいたんですか」
畠山にとって選挙とは宝探しであり、毎回のように宝を見つけてきた。
畠山はカメラに向かってこう告白する。
「ボクと立候補者とは似てると思うんです。だれからも相手にされなくても、自分がやりたいと思うからやっている。みんなからバカにされても、これをやりたい、と思ってずっと続けている姿には、親近感がわきますね」
東京選挙区から立候補しながら、東京ではほとんど選挙活動をすることなく、仲間の応援演説のために全国を飛び回っていた立憲民主党の蓮舫に取材するため、畠山は東京から車を運転し、長野県にいた蓮舫に会いに行く。わずか数十秒の取材のために、往復5時間の運転を苦にしない。