自ら宣教師となり、選挙を楽しむ術を伝授
“丁稚奉公”を終えてフリーランスになると、年収が1000万円を超えたこともあった。校了日の週刊誌の編集部には、高級弁当が山積みで置かれており、だれでも食べていいというような、贅沢な時代だった。しかし、出版業界はその後、下降線をたどり続け、ノンフィクションの世界で生きていくことが徐々に厳しくなってくる。
その後、選挙取材を主戦場にしてキャリアを積み上げてきた。「開高健ノンフィクション賞」を取った『黙殺』には、畠山の選挙取材のエッセンスが凝縮されている。なかでも長年、数多くの選挙に立候補しながら、主要メディアからは無視されてきたマック赤坂を描いた章は白眉だ。畠山にしか書けない取材の厚みと、候補者との信頼関係を実感できる。
1人でも多くの人が投票に行くことが、民主主義が正常に機能するのには不可欠だ、と信じている畠山はこれまで、自ら宣教師(エバンジェリスト)となって、選挙を楽しむ術を伝授してきた。どんな候補者でも楽しめることを特技としており、投票率が現状より5ポイント上がるだけで選挙結果はがらりと違ってくる、というのが持論だ。
「これが最後の選挙取材」と臨んだ沖縄知事選挙
その一方で、畠山はこう語る。
「週刊誌に選挙報道を書こうと思えば、最初の数日だけ取材して、選挙前に発売される雑誌に記事を書くのが効率がいいんです。でも、最後まで取材したくなるじゃないですか。そうすると、採算がね……」
畠山が「これが最後の選挙取材だ」として臨んだのが、沖縄県知事選挙だった。
沖縄県知事選に立候補したのは現職の玉城デニー(立憲、共産、れいわ、社民、沖縄社会大衆推薦)、佐喜真淳(自民・公明党推薦)、下地幹郎(無所属)の3人。
実は私も沖縄に貼り付き、この選挙戦を取材していた。取材先で畠山とばったり会った夜、那覇市の居酒屋で一緒に飲むことになった。
「今、ボクが密着取材を受けているんですよ」と言って、飲み屋に同行してきたのが、今回の監督である前田亜紀だった。選挙中は2時間しか寝なくても大丈夫という畠山の話を聞きながら、そんな取材に付いて行くのは大変じゃないですか、と前田に訊かずにはおられなかった。
「いやぁ、もうへとへとですよ」
と言いながらも前田のどこか嬉しそうな表情を見ながら、類は友を呼ぶということなのだろう、と理解した。