長州の人生を変えた大騒動
この言葉は、長州力が言うからこその重みがある。長州力はアマレス界からエリートとしてプロレス入りしたが、長い間地味な存在だった。私もよくその頃を覚えているが、パンチパーマが伸びたような髪型で全体的にモサッとしたイメージがあった。
そんな長州がメキシコ遠征に出された。団体からは特に期待をされていなかったように見えた遠征だったが、メキシコで力を蓄えた長州は「かませ犬事件」を起こす。
帰国直後の試合で、格的に上だった藤波辰爾(当時は辰巳)にけんかを売ったのだ。事件である。メディアには「俺はお前のかませ犬じゃないぞ!」というフレーズが躍った。長州は観客を驚かせた。今までくすぶっていた人間の行動に共感したプロレスファンは多かった。ファイトスタイルも情念を叩きつけるような熱いものになり、この下克上をきっかけに長州は大化けした。
言わば自分自身が考えた「マッチメイク」で勝ったのだ。人生を変えたのである。紛れもないドキュメントだった。客の心をつかめなかったら大失敗という賭けに勝ったのだ。
しかし、1人の人生を変えたこれほどの騒動も「それも『プロレス』でしょ?」と言ってしまう人もいるだろう。2人の仲間割れは「あらかじめ決まっていたんでしょ?」とか。
これに関して、長州はかなり興味深いことを同じ号の『Number』で言っている。
《たっつぁん(藤波辰爾)とのアレ(抗争)も、会長が俺に「おまえはちょっと味が薄い」って言ってきたから俺は調味料を使ってちょっと味を濃くしてみただけであって。》
独特の表現である。さりげなく言っているが凄い言葉だ。先ほどの《俺たちは真剣にマッチメイクをやっていたんだよ。それを「どうせプロレス」って片づけられたくない。》にピタリと符合するではないか。めちゃくちゃ説得力がある。人生を変えたマッチメイクを行ってきた人間の言葉は、さりげなくても重い。
与えられた座組の中でいかに自分を出すか
長州の言っていることは他の世界でも例えてみることができる。芸能界ではかつて有吉弘行さんが『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で品川祐さんに言った「おしゃべりクソ野郎」で再ブレイクしたケースに似ている。