「出演の決め手は、主人公アキラの人生で、彼の目線で、リアルなリリック(歌詞)が書けるな、俺、と思えたことです。また何か役をもらう機会があるとしたら、これが自分にとって軸になる感覚なんだろう、と思っています」
このたび、庄司輝秋監督の長編デビュー作となる映画『さよなら ほやマン』で初主演を務めたアフロさん。ふだんは、心をえぐる鋭いリリックと熱いパフォーマンスで人気のバンド「MOROHA」の、作詞担当にしてラッパーだ。なんと本格的な映画出演はこれが初、演技もほぼ初挑戦。もともとMOROHAのファンだった庄司監督から、「この役はアフロ君を想定して書いた」と言われ、心が動いたという。
舞台は、宮城県石巻の離島。漁師のアキラは、古い大きな一軒家に弟のシゲル(黒崎煌代(こうだい))と2人で暮らしている。両親は12年前の震災で行方不明のままだが、島の人々に優しく見守られ、貧しいながらも平和な日々を送っていた。そんなある日、何やら訳ありげな漫画家・美晴(呉城久美)が島に現れ、札束をチラつかせて「この家、私に売ってくれない?」と持ちかけてくる。突然の申し出に驚くも、実は借金に困っていたアキラは断りきれない。こうして、3人の奇妙な共同生活が始まる――。
石巻は、庄司監督の生まれ故郷だ。本作は、監督のふるさとへの思いから生まれた。一方、劇中で離島育ちの“海の男”を見事に演じきったアフロさんは、四方を山に囲まれた長野の出身。しかし、ふるさとへの思いは共通していた。
「俺もアキラと同じように、“どこにも出ていけない”閉塞感とともに育ちました。だから、彼が島を愛する気持ちと恨みがましく思う気持ち、その両方がすごくよくわかるんです。アキラが漁師になるしかなかったように、俺は実家の家業を継ぐものだと思っていた。田舎は職種の選択肢が少ないので……。そんなふうに、ある時期まで人生でうまくいかないことはすべて、ふるさとのせいにして生きてきました。でも、どんなに憎んでも、ゆるしてくれるのがふるさと。今となっては“憎ませてもらった”感じです(笑)」
アキラもシゲルも、海のものを一切口にしない。シゲルは島の外に出ることもできない。生活を共にするうち、一見幸せそうに見える兄弟が大きなわだかまりを抱いていることに、美晴は気づいていく。
「ふるさとへの鬱屈した思いと同時に、2人にとってはあの震災が大きな心の傷。ただ、考えてみると、そういうものは誰でも持っているし、誰にでも起こりうること。だから問題は常に、そんなことが起こりうる人生にどう向き合って、どう生きていくのか。多くの映画と同じように、本作のテーマもまさにそれなんです」
ところで、「ほやマン」とは何か? ほやが特産品の島のPRのために、かつて父が考案し、自ら演じていたご当地ヒーローである。アキラたちは、このキャラを復活させ、YouTubeで動画を配信。一攫千金を狙うのだが……。ほやマンは奇跡を起こせるのか?
1988年生まれ、長野県出身。2008年、高校の同級生だったUKと、ラップ&アコースティックギターによるバンド「MOROHA」を結成、全楽曲の作詞とラップを担当する。18年メジャーデビュー、22年日本武道館単独公演。最新リリースは今年6月発売のアルバム『MOROHA V』。著書に、本名・滝原勇斗名義でのエッセイ『俺のがヤバイ』がある。
INFORMATION
映画『さよなら ほやマン』
11月3日公開
https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html