今回は『秘蔵版 日傘の女』を取り上げる。戦時中を舞台にした、ポルノ映画だ。
料亭で下働きをしていたお雪(親王塚貴子)は、帝国軍人の駒造(喜田晋平)に見初められ、愛人として囲われる。だが、お雪は性的な快感を得ることができないでいた。
エスカレートする駒造の仕打ち。耐えかねたお雪は逃げ出し、想っていた作家志望の若者・北村(中海加津治)に抱かれる。この時、初めてエクスタシーに目覚めた。
この手の映画では定番ともいえる展開である。何の情報も入れないで観れば、どうということのないエロティック作品といえるだろう。
ただ、本作の脚本と監督を担った人物の名前を知ると、途端に一筋縄でいかない一本として妖しく輝き出すのである。その人物の名は宇寿木純。
――と言われて、ピンとくる方はほとんどいないだろう。ただ、彼は俳優もしている。その芸名は天知茂という。
そう、あのハードボイルドさが魅力のスターだ。しかも、これを製作した会社は「アマチフィルム」。天知茂自身の会社なのだ。
あの天知茂が自身で脚本を書き、監督までした映画――そういう目で捉えると、いかに貴重な作品であるか、ご理解いただけるはずだ。
そして物語展開がそうであったように、その演出スタイルもまた、定番手法を多く使っている。特に、金魚鉢、風鈴、浴衣とほつれ髪、ひぐらしの鳴き声――といった季節感の情緒を背景にあしらっているのが印象的だが、一九八四年という製作年を考えると、かなりアナクロ的な感は否めない。
その一方で、天知茂の意外な一面が垣間見える演出もある。たとえば、ビデオ撮影の特性を活かして男女のドタバタを早回しで映したり。あるいは屋形船の場面では、天知ファミリーの俳優・桜川梅八が下ネタ満載の太鼓持ち芸を延々と繰り広げたり――。あのダンディな天知茂が、こうしたベタベタにコミカルな演出をしていたかと思うと、そのギャップでたまらなく可愛らしく思えてきてしまう。
もう一つ、印象的な点がある。それは、濡れ場の撮り方だ。駒造によるお雪への責めは剃毛や緊縛など、それなりにアブノーマルになっている。が、それが決してエゲツない印象を与えていないのだ。
特に緊縛の場面は、そのものは撮らず映るのは事後のみ。プレイ中は廊下に漏れる声のみで表現。それを盗み聞きしながら自慰行為にふける下働きの女(松本麻里)だけを見せるという間接的な描写で表現していた。
そんな撮り方に、天知らしいダンディズムを垣間見た。