そのまま親が亡くなり、きょうだいが本人の面倒を見ることになり困っているという相談も、時々入るようになりました。「きょうだいだから見捨てることはできない」という気持ちと、「でも現実問題としてそんなにお金を渡すこともできないし、納得もいかない」という気持ちの間で苦しんでいる様子を見ると、親の不作為の罪を感じざるを得ません。生前に親がすべきことを、きょうだいである我が子に押し付けただけなのですから。
親はひとつの事例しか知らない
親だけで解決が難しい理由のひとつが、親が直接知る事例が我が子1人であるということです。しかも目の前にあるのは、解決していない事例です。すなわち親は、解決した事例はひとつも知らないのです(稀に兄弟とも引きこもりで、兄は解決したけれど弟は……ということはあります)。
経験のある支援者ならたくさんの事例を見ており、多様な引きこもりの中でその人がどういったタイプなのか分類できるはずです。過去の成功事例から、このタイプにはどういう対応がいいのか、ある程度の予測もつくでしょう。
引きこもりは昼夜逆転の生活やゲームばかりに時間を費やすことは普通なのですが、その事実を知らずに「昼夜逆転なんておかしい、何とか生活リズムを戻さなくては」「ゲームしかしていない、ゲーム障害の病院に行った方がいいのか」と考えていることも珍しくありません。
相談で昼夜逆転生活やゲームの話をされても、引きこもりの大半に当てはまるので、私たちが驚くことは全くありませんし、それだけでタイプの分類はできません。逆に「生活は本当に規則正しく、毎日きっちり同じ時間に起きます」という話の方が、「おっ」と少し前のめりになります。
うつや統合失調症などの病気の有無も、実際に病気の人に接した経験がなければ、なかなかピンと来るものではありません。私たちは医師の資格はないため確証は持てませんが、「これは明らかに病気では」「病気の可能性はあるので診察してもらう方がいい」といったおよその判断は経験からできます。