スイスで教育を受けた私の歴史観と、日本で教育を受けた人々のそれが一致するのかどうかは、わかりません。しかし、この『戦争まで』に書かれていたことは本書の狙い通り、私にとっても“目からウロコ”でした。
本書を通して著者は日本が「戦争まで」に行った三つの選択、すなわち(1)満州事変と国際連盟脱退(2)日独伊三国同盟(3)ハルノートと日米開戦について、当時の状況をできるだけ細かく再現し、選択の理由に迫ります。
そしてその中で、日本を国際連盟脱退に“追い込んだ”とされるリットン調査団の報告書が、日本に対して宥和的な内容だったこと、日米開戦前に近衛文麿首相とローズベルト大統領によるハワイでの首脳会談も具体的に検討されていたこと(しかも新聞のリークで世論が反発し、実現せず)など知らなかった史実が次から次へと描かれます。
歴史とは選択の連続ですが、理不尽な選択には、それなりの理由があったのだ、と強く感じました。
一般的に語られるように米英によるブロック経済により、追い込まれて戦争に踏み切った……というのではなく、主体的に「戦争」を選択していった背景には何があったのか? 複雑な事情を知ることには大きな意味があると思います。
本書のユニークなところは二点あります。一つは、書店の募集に応じた中高生に対して行われた授業を基にしている、ということ。そのため、語り口は柔らかいのですが、ハイレベルすぎるやり取りは、付いていくのが大変でした……。
もう一つは、歴史をベースにしながらも、「現代」に主眼を置いていること。太平洋戦争開戦前の日本と現在の日本、もしくは世界を比較することで、今の日本がどこに向かおうとしているのか、向かってはいけないのかが語られています。
この点こそが著者が本書を執筆した一番の動機だと思いますが、最悪の「選択」をしないためのヒントとして歴史を見る視点は、大切なのだと思いました。
かとうようこ/1960年埼玉県生まれ。東京大学大学院教授。2010年『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』で小林秀雄賞受賞。ほか『模索する1930年代』、『昭和天皇と戦争の世紀』など多数の著書がある。
はるかくりすてぃーん/1992年スイス生まれ。趣味は国会議員追っかけ。著書に『ナショナリズムをとことん考えてみたら』など。