14歳2か月での史上最年少プロデビュー後、29連勝、最年少タイトル、最年少名人位獲得、さらには前人未到の八冠独占......次々と将棋界の記録と常識を塗り替えていく藤井聡太竜王・名人。
そんな“令和の覇者”の「圧倒的強さ」「真理に迫る一手」の秘密を、羽生世代のレジェンド棋士・森内俊之九段が鋭く深い視点で読み解く。『超進化論 藤井聡太 将棋AI時代の「最強」とは何か』(飛鳥新社)から一部を抜粋してお届けする。
飽くなき探究心
深い読みは藤井さんの強みだが、彼のすごさは、ある手が見えたとしてもさらに掘り下げていくところにある。
早く指して相手の意表を突くのも立派な勝負術だが、こうした相手との駆け引きを藤井さんがしている場面を私は見たことがない。藤井さんは、ひとつひとつの局面、一手一手を本当に丁寧に指していると感じる。
新人時代から長考派で、興味深い形が現れたら思わず考えてしまう、といった様子で時間を使っているように思えた。序盤からそうやって時間を使い過ぎてしまい、終盤で時間切迫になることも多かったが、最近は、ある程度で見切りをつけてうまく時間配分を行っているように見える。
2022年度は朝日杯将棋オープン戦、銀河戦、NHK杯戦、将棋日本シリーズの一般棋戦すべてを“同一年度に優勝する”という快挙を成し遂げた。この4棋戦はいずれも早指しで、そこですべて勝ったということは、時間の使い方のバランスが良くなっていることを表している。
藤井さんは、「早い段階で使い過ぎてしまうと、一局を通して見たときにかえって納得いくまで考えることが難しくなる」と、時間配分を見直した理由を語っていた。動機は最善手を求める探究心なのだが、結果として実戦的なテクニックにも磨きがかかっているところが恐ろしい。
チームメンバーに指名されて驚き
早指しといえば、藤井さんと私は、2022年の第5回ABEMA(アベマ)トーナメントでチームを組んだことがある。