朝ドラ『ブギウギ』も快調だが、NHKは夜も侮れない。夜ドラ『ミワさんなりすます』の愛と笑い、サスペンスにハマって、夜の更けるのが待ち遠しい。

 主人公の久保田ミワ(松本穂香)はフリーター、29歳。特別のスキルも資格もない。楽しみは映画(鑑賞)。映画愛も極まったミワが神と敬う“激推し”が国際的俳優の八海崇(やつみたかし)だ。

松本穂香 ©文藝春秋

 八海が家政婦を募集していることを知って、どんな人が採用されるのかと、ノコノコ出かけたミワだが、該当者は八海邸の門前で車にハネられ、救急車で搬送された。彼女の名前は「美羽(みわ)さくら」。女性マネージャーが屋敷から出てきた。「あなたがミワさんね」。ミワは、しばし逡巡の後でハイとうなずく。なりすましの家政婦。いつ正体がバレるか。怯えながらも、神と同じ空気を吸う快楽に、ミワは酔いしれる。

ADVERTISEMENT

 オドオドした松本穂香の顔が、おかしくもあり、切なさも漂う。ある日、書庫の閂(かんぬき)がかかり、八海崇(堤真一)とミワは同じ空間で二人きりになる。「すべて分かってるんだぞ、この偽者め!」という八海の叫びに、ついにバレたと観念するミワ。すると八海は、こんな台詞を昔、映画で口にしたんですが、作品名を忘れてしまってと話す。

 するとミワさん、ピンと来て、台本の山を素早くチェックして、これではないですかと差しだす。「え、こんな昔の。しかも自主映画の台詞を」と驚く神。

『パラサイト』の話題になり、八海が「あの青空は良かった」と言うと「ハイ」とミワが答える。どのシーンかわかるんですか。またも仰天して配信でそのシーンを調べるも特定できない神に「56分24秒あたりでは」とミワさん。

「ただの家政婦ですから」と卑下する彼女に「ミワさんは、私にとってかけがえのない人です」と八海は微笑む。尊い神のお言葉。

 しかし恐れていた事態がおきた。本物の美羽さくら(恒松祐里)が現れたのだ。なりすましの理由を問い詰められ、映画と八海崇を愛しているからと泣きながら、ミワは謝罪する。

 すると「私と同じ人がいるなんて!」と叫び、本物が笑いだした。彼女も八海崇オタクだったのだ。「ふだんは、どんな人?」とミーハー丸出しで訊く。しかしミワが罪悪感から、なりすましを白状したいと言うと、「カマトトぶってんじゃねえよ!」と怒鳴る。

 怖い。こんなサイコな女性に恒松祐里はぴったり。そしてミワの“なりすまし”も知ったうえで温かく見守る八海役の堤真一もその包容力は特筆に値する。

 八海にとって、かけがえのない存在になったミワだが、美羽さくらの感情の起伏に翻弄される日々は、まだまだ続く。笑いとサスペンスの渦巻く夜の15分間は至福の時が流れる。

INFORMATION

『ミワさんなりすます』
NHK総合 月~木 22:45~
https://www.nhk.jp/p/ts/5GWLQJPMR4/