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「私人逮捕の力ずく」はどこまでOKなのか…自称「正義のユーチューバー」の法的に許される範囲を弁護士が解説する

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genre : ニュース, 社会

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現行犯であっても、不必要な暴力を伴う逮捕は違法

そもそも、私人逮捕とはどのような場合に成立するのでしょうか。

第一に、逮捕は原則、警察官など逮捕権のある人しかできません。一般人が逮捕できるケースは、目の前で窃盗が行われていたり、殴る蹴るなどの暴行や、刃物を持っていたりする場合、または「この人は痴漢です!」と大声で助けを求めている状況など、現在進行形で犯罪が行われている「現行犯」あるいは準現行犯の場合のみです。

ただし、一般人が現場で即座に「適法な逮捕か」「違法な逮捕か」を見極めるのは非常に困難です。例えば、過失傷害罪や侮辱罪など、懲役刑が定められていないような罰金30万円以下の軽微な犯罪の場合。これは刑事訴訟法217条により「犯人の住居若(も)しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合」に限って現行犯逮捕が可能です。

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逆にいうと、これらの要件を満たさない私人逮捕は違法になる可能性があります。

また仮に上記の要件を満たしていたとしても、逮捕行為自体が社会通念上、必要性、相当性が認められない態様でなされた場合(不必要に過剰な暴力行為を伴う等)にも違法な逮捕行為と評価される可能性があります。

このような事前の法的知識を含め、私人逮捕の名のもとにユーチューバーが正義を振りかざすのには限界があると私は感じています。

密漁犯を竹竿で叩き突いて取り押さえたケース

では具体的に、私人逮捕はどこまでが正当で、どこからが違法行為に相当するのでしょうか。ここからは逮捕者が犯人を取り押さえた際に怪我を負わせたとして傷害罪で起訴されたものの、無罪となったケースを見ていきます。

1.1975(昭和50)年4月3日 最高裁判所第一小法廷
問題となった罪名:傷害罪

あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため密漁船を追跡中、同船が停船の呼びかけに応じないばかりでなく、三回にわたり追跡する船に突込んで衝突させたり、ロープを流してスクリューにからませようとしたため、抵抗を排除する目的で、密漁船の操舵(そうだ)者の手足を竹竿で叩き突くなどし、全治約一週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた行為。

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