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スティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも子供にデジタル機器を持たせなかった

 iPhoneの生みの親であるジョブズが、自分の子供たちに自社製品を限定的にしか使わせなかったのは、おそらくそれが一因だろう。ニューヨーク・タイムズ紙のテクノロジー記者ニック・ビルトンが、子供たちはiPadを気に入っているかとジョブズに尋ねたところ、ジョブズはこう答えた。「うちの子たちはまだ使っていないんだ。家のなかで使うデジタルテクノロジーは制限しているから」

 マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツと妻のメリンダも同じような対策をとっていた。自分の子供たちには、14歳になるまでスマホを持たせなかったのだ。ビルトンによれば、テクノロジー業界の経営者や出資者の大半が「子供のスクリーンタイムを厳しく制限している」という――それをふまえ、ビルトンは記事をこう結んでいる。「IT企業の幹部たちは、一般の人々が知らない何かを心得ているようだ」

 昨今では数多くのメンタルヘルスの専門家が、その“何か”を依存症のリスクだと結論づけている。この表現はさすがに大げさだと思うだろうか。ここで話題になっているのは薬物ではなく、デジタルデバイスなのだから。けれど、依存の対象になるのは薬物やアルコールだけではない――ギャンブルやエクササイズといった行動に対しても起きる) 。そして、依存にはさまざまな度合いがありうる。つまり、人生を台無しにしない程度に依存症になることは可能なのだ。

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依存の特性

 では、依存とはどういった状態だろう。定義のうえでは、弊害があるが意に反して何か(薬物やギャンブルなど)をやめられないこととされている。

 カナダの精神科医ノーマン・ドイジは著書『脳は奇跡を起こす』〔竹迫仁子訳、講談社インターナショナル、2008年〕で、依存症の特性を次のように解説している 。「依存症とは、特定の行為に対する制御を失い、悪影響があるにもかかわらず衝動的にそれを求め、耐性によって徐々により強いレベルの刺激でなければ満足できなくなり、また依存対象による満足が得られない場合には離脱症状を起こすもの」

写真はイメージ ©️AFLO

 この説明は、私たちの多くがスマホで経験していることそのものではないだろうか。そのうえ、IT企業の大半は“依存”という表現を用いることに抵抗はないようだ(現に、マイクロソフト・カナダは2015年度の消費者レポートで、1ページいっぱいのデータに、“テクノロジーに対する行為依存の傾向は明らか。とりわけ若いカナダ人において顕著”という見出しをつけた。それでも、この言葉が引っかかるなら、それはそれで仕方がない――どう表現してもらってもいい。