ようやく、中学生向けの集中講義を担当させてもらえたのですが、やはり評価はぱっとせず、
「しばらくは担当するコマが埋まっているので、改めて連絡します」
と事務局から言われてしまいました。つまり、クビみたいなもんです。評価が高く実績のある講師は多くの授業を担当できますが、僕にはその後、一度も連絡が来ませんでした。
僕は、受験科目の担当ではなく、推薦入試の小論文や大学院入試科目の指導ならできるはずだと他の予備校の面接も受け、採用されました。
ところが、ここで僕は改めて、人前で話をするのは得意ではなく、授業をするのが下手なのだと痛感しました。小論文の授業を担当しましたが、やはり評価が悪く、それ以来、授業は任されず、論文の添削しか回って来なくなりました。
「ダメ男」という烙印
講師のアルバイト経験はキャリアにもならず、自己肯定感を下げただけでした。この間、創作意欲は封じられ、原稿にはまったく手を付けられませんでした。できるなら、アルバイトなどせずに執筆に打ち込みたいところですが、奨学金の返済もあって、さすがになにもしないというわけにはいきませんでした。
次の仕事は、大学の図書館でのパートでした。
学生時代、僕は大学の図書館でバイトしたこともあり、文学部出身なので「図書館」という職場は選択肢に浮かんではいました。しかし、暗くて地味で……職場という意味では、僕は図書館にいいイメージがあまりなかったのです。
案の定、やはり後悔することになりました。原因は、口の悪い上司の存在でした。
40歳過ぎの女性の上司だったのですが、とにかく噂話が大好きで、根掘り葉掘り聞いてくるのです。僕の経歴を見て、
「へー、こんな大学出ても結局ここに来ちゃうんだ」
などと無神経なことばかり言うのです。
「今の時代、もう学歴は古いのかもね」
と断言され、カッと来た僕は思わず、
「まだ、わかんないですよ。僕、ここで人生終えるつもりないんで」
そう返すと、
「もしかして、作家とか目指してる?」
と聞かれ、僕はドキッとしました。
「どうしてですか?」
と尋ねると、
「前にもそういう人勤めてたから」
「そ、そうなんですか。その方はもう辞められたのですか?」
「うん。自殺したらしい」
あっけらかんとした口調で彼女は言いました。
無神経だけどやたらカンが利く、僕にとっては最悪の上司でした。彼女は、僕のプライべートにもズケズケと口を出してきました。
「栗山君、彼女いないんでしょ? 女性が寄ってくるタイプじゃないんだから、自分から行かないとダメだよ」
などと仕事が遅くなると必ず、若い女性職員を送り届けろとうるさいのです。こういうのセクハラですよね? 女だから許されるっていうものじゃないと思うんですけど……。
アルバイトでのストレスは、心身に応えました。対人関係のストレスは、学生時代にももちろんありました。ただ、学生時代は目標に向かっていたので乗り越えられたのだと思います。バイトは夢を叶えるためではなく、ただ、奨学金の返済のためです。
一体、何のための苦労なのか、僕は本当に何をやっているのか、もう何が何だかわからなくなっていました。