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「難しい試験なんだから無理しなくていいのよ。真理ちゃんだから、お見合いの話もあるんだけど、どう?」

 やはり母は先回りしていました。

 母としては、最終的に経済力のある男性と結婚すれば満足なんでしょうが、私は専業主婦という選択だけはどうしても避けたかったのです。理由は、母の生き方が、嫌だったからだと思います。経済的に夫に依存した生き方だけはしたくないと、心のどこかで思って生きてきました。

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「余計なことしないで!」

 そう言って、電話を切りました。

 受験制限まであと1回チャンスはありますが、生活費がまもなく底をついてしまう……。

©AFLO

炊き出しの列に並ぶ

 近所の公園で、ホームレスの人々を対象にした「炊き出し」の列ができている光景が目に入りました。

 若いカップルも並んでいて、思わず私も列に並び、おかずとスープをいただき、おにぎりももらいました。1日の食費を浮かすことができたのです。主催者の方が、毎週開催している時間を教えてくれたので、それから列に並ぶようになりました。

 今後の生活費をどうしていこうか……来月には貯金は底をついてしまう。それでも実家に戻ることだけは避けたいと思いました。

「弁護士の○○先生、生活保護受けていた時期もあったって……」

 極貧の受験生活を送った法曹関係者の噂も、真偽は定かではありませんが、聞いたことがありました。一瞬、「生活保護」という手段が頭を過りました。

 受けられるものならば、躊躇はありませんでしたが、問題は扶養照会です。家族に生活保護申請を知られるわけにはいかなかったんです。

 途方に暮れているとき、珍しく父親から着信がありました。

「元気か? ごめんな。母さんがまた余計なこと言ったみたいで」

 優しい父は、昔から極端な母の行動をフォローしてくれました。

「まあ、いつものことだから」

「母さん見栄っ張りだから、真理に昔から迷惑かけてたよな」

「何よ、今さら」

 父の仕事は忙しく、ふたりで話をするようなことは、これまでなかったかもしれません。

「お父さんできることないけど、少しお金を振り込んでおいたから使って。結果はどうあれ、最後まで諦めないことだぞ。後悔だけはしないように」

 父の思いやりに、私は胸が熱くなりました。

 翌日、口座を確認すると、父から100万円振り込まれていたのです。私はこのお金で、最後のチャンスに挑むことにしました。

 その1年間、会話したのは炊き出しの主催者とホームレス、そして、新興宗教の勧誘の人だけでした。体重はさらに増え、髪は白髪だらけで臨んだ試験。

 結果は不合格――。

 改めて、「司法試験」のレベルの高さを実感しました。これまで私が経験してきた試験とは比べ物にならないレベルだったんです。