それでも、私は諦めませんでした。当時3回だった受験資格を消化しても、予備試験に受かって受験資格を得るという道が残されていたんです。ここまできたら、とことん、受けるしかないと思いました。
そのために、生活自体を見直さなければならないと思い始めたのです。これほど受験生活が長引くとは思っていなかったので、不摂生も仕方ないと考えていましたが、体調を崩すことが多くなり、集中力も落ちました。生活費もこれ以上、家族に甘えるわけにはいかないので、働かなければならないと思いました。
貧すれば鈍す
私は就職活動を始めました。前職の経験を生かして、子ども英会話教室なら時給はいいし、楽勝だろうと思ったのです。
まず筆記試験がありましたが、これは完璧でした。ところが、2次面接のネイティブスピーカーとの面談では、単語がスムーズに出てこなかったのです。5年以上、生の英語に触れていませんでした。
私はもっと準備しておくべきだったと後悔しましたが、案の定、結果は不採用でした。次の面接は有名ホテルの従業員採用です。
面接官だった女性が、CA出身だと聞いて嬉しくなりました。面接が終了し外に出ると、フロントには著名人の姿がありました。格式の高いホテルで仕事ができるなら、ここに勤めるのもアリか……と、辺りを見回しながら歩き始めた時、
「ちょっといいかしら」
元CAの面接官に呼び止められたのです。
「あ、はい」
彼女は私を、ホテル内の大きな鏡の前に誘いました。
「先輩だから、率直な意見を伝えてあげたいと思って」
面接の時とは打って変わって厳しい目つきでした。
「私に採用の可否を決める決定権はないの。だからわからないけど、あなたが採用されることはないと思う」
「え?」
「あなた、鏡を見てきた?」
女性は私に鏡を見るように促しました。
「今は身だしなみなど気にしていられないと思うけど、10年前、その姿で飛行機に乗れたかしら?」
私はドキッとしました。
「あなたとても30代には見えない。ブラウスのボタンも取れてるし、スーツのボタンも取れてる。ストッキングは伝線してるし、そんな姿で面接に来た女性はいません。接客業ではありえない。よく鏡を見て、どんな仕事が向いているか、もう一度よく考えてみるべきよ」
そう言って女性が立ち去った後、私は全身が映る大きな鏡の前にしばらく呆然と立ち尽くしていました。
とにかく仕事をしなければと、細身のスーツに無理やり身体をねじ込んだ結果、ボタンははじけ、ストッキングも破れ、すでに美容院に行かなくなって2年以上が経過した髪の毛は白髪だらけでした。
私は明らかに場違いなところにいて、きっと、第三者が見たら、炊き出しに並ぶ姿の方が私にマッチしているのだと、ようやく現実に目が覚めたのです。