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――確かに、必要なものを、収納してある場所まで取りに行くことが大変だったりもしますよね。

柴田 そうそう。例えば、テレビの前の机に鉛筆とマジックとセロテープとハサミがあって、来た郵便物があって。で、食卓に行ったらそっちにもまた鉛筆なり紙なりがあって、薬があって、寝床にも同じ薬や軟膏があって、という。「同じものは一箇所に集める」というのが、親にとっては暮らしにくいのだと悟りました。

リハビリのモチベーションを保つために行った「ニンジン作戦」

――ご病気などをされるとご本人が落ち込んだり塞ぎ込んでしまうこともあると思いますが、そういうときにはどんな風に接していたのでしょうか。

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柴田 モチベーションを保つ意味で有効だったのは「ニンジン作戦」でしたね。母ががんばってリハビリに取り組めるように、鼻の先にニンジンをぶら下げることにしたんです。母はお酒が大好きなので「お母さん、元気になったら何したい? お酒飲みたいやろ?」と聞くと「そら飲みたい」と言うんですよね。

 そこで「それなら、お正月は家に帰って一緒にお酒を飲みたいね」と言うと「おいしいおせちも食べたい」と。それならばと、「じゃあお正月のお酒とおせちを目標にして、頑張ってリハビリをやらんといけんね。家に帰れなかったら、子どもたちにお茶や謡も教えられんし、子どもたちもお母さんが帰ってくるのを待ってるよ」ともう1本ニンジンをぶら下げて。

 

――やはり明確に、モチベーションが上がるものですか?

柴田 何かしらご褒美があると前向きな気持ちでいられるようですね。「そうだ、子どもたちが待ってる」「お正月に家に帰れるように、リハビリを頑張る」と作戦は見事に成功しました。実際に母は入院先の病院から一時帰宅することができ、一緒に大好きなお酒とおせちを味わうことができましたから。

撮影=橋本篤/文藝春秋