葬儀もセルフプロデュース
『KAN 1DAY SPECIAL “Our Favorite Songwriter”』では、根本要と馬場俊英が、KANと過ごした最後の時間について、
「(病室で)15分、と言われたのが1時間くらい話していた……ジャカルタについて」
と回想していた。
お葬式の遺影は夏目漱石を模したもので、Apple Musicのアーティスト画像にもなっているが、唸るほど似ている。でも、似ているのにガッツリKANさんなのだ。これがすごい。
そして還暦の記念に「赤いちゃんちゃんこなんて着たら敗北だと思います」という謎のこだわりを見せ撮影した振袖の写真も、棺のそばに飾られたという。
さかのぼれば、病気を公表するコメントの、
「応援してくださる皆さまには、どうか、心配ではなく、どうぞ、楽観していただければと思います。皆さまに楽観していただけることが、きっと大きなエネルギーになる、そんな気がしています」
心配ではなく楽観。この言葉を、ファンをはじめ、彼を待つ人が実践できるよう、すべて自分で準備していったのかもしれない。
伝え続けた、胸が痛いほどの「君が好き」
彼の楽曲から伝わってくるのは、不器用だけど、ひたすらな「君が好き」「一番好き」という気持ちだ。空回りしても、七転八倒し、思いを伝える術を探す主人公。
トライアンドエラーを繰り返し、好きな人、大切な人の一挙一動を見て笑ったり泣いたり浮かれたり。想いが強まるほど、喉のあたりで渋滞して上手く出てこなくなったり。彼女のカレーライスやひざ枕に、浮かれたり落ち込んだり。とにかく感情が忙しい歌に、こちらまで泣いて笑って、わかるわかる、と頷いてしまうのだ。「まゆみ」「エキストラ」「君が好き胸が痛い」「東京ライフ」「言えずのI LOVE YOU」などなど、名曲はあきれるほどに多い。私は、光のようにキラキラと反射しながら降ってくるピアノの音に乗せ、「こんなメロディはどう?」と問いかけられる、「Songwriter」が大好きである。
面倒くさいほど愛いっぱいのソングライター、KAN。
12月20日からは「愛は勝つ」を皮切りに、これまで未配信だったポリドール&マーキュリー時代の名曲がサブスク解禁されている。彼が紡ぎ出してきた、幸せな問いかけと告白を聴こう。