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 杉並に縁もゆかりもない候補。どんな人なのかこの目で確かめよう。ペヤンヌマキさんは集会でのあいさつを聴きに向かう。そこで語られた「人々の心を聴く」という言葉で心は決まった。気が付けば岸本さんのビラ配りを。さらには自分の経験を生かし、選挙を盛り上げる動画を伝えるため密着撮影を始めた。その成果がこれ。ペヤンヌマキさん、映画初監督作品である。

ハイボール片手にこぼれた本音

 市民のための区長を誕生させる。そのことありきで撮られている映像だからこそ、選挙を背後で支える人たちの葛藤もありありと写されている。事態はそう簡単には進まないのだ。チラシの言葉一つ巡って議論は侃々諤々、まとまらない。みな地元で理想の街づくりのため活動してきたから、それぞれに思いがある。何を訴えるのか、思いが交錯する。

 その議論に岸本さんも縛られる。でも候補は朝から街頭に立ったり、住民とのタウンミーティングに参加したり、一日の終わりにツイッターで発信したり、候補にしかできないことが山ほどある。夜の会議が長引くと早朝の街宣がツラい。ちょいとキレたくもなる。

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©️2024 映画 ◯月◯日、区長になる女。製作委員会

「みんなちょっとは、聡子(自分)がやりやすいように連帯してほしいな。自分たちの自己実現のために、あたしの能力を使ってるんじゃないの?」

 こんな本音の弱音をカメラは捉えている。そこがこの映画の魅力であり、岸本さん本人の魅力にもなっている。弱音を語る岸本さんの手元にはハイボールの缶。さりげなく置いてあるのがニクい。これは演出ではなく地のままだろう。

「選挙のやり方そのものが壊れてる」

 駅前での朝立ち。名前の連呼。そんな従来の選挙手法にも岸本さんの疑問は募る。

「政策論争がしたいんだよね」「選挙のやり方そのものが完全に壊れてる」

 その葛藤を解消する間もなく、選挙戦はどたばたと進む。選挙事務所が決まったのは投票わずか20日前。しばらく使われていなかった商店街の集会所。カビが生えていた。スタッフの女性が熱心に掃除する。

「選挙事務所は汚かったら絶対に通らない(当選しない)と言うのよね。いろんな人が出入りするから、見られるから。だからきれいにするの」