僅差の勝利と新区長が浴びた洗礼
この頃、私は岸本さんの姿を目撃している。2022(令和4)年6月10日、杉並区のJR高円寺駅前で。そもそもの狙いは近々始まる参院選でれいわ新選組から立候補する水道橋博士の演説を聴くためだった。
「この辺りは昔ながらの街並みを残していますけど、これをつぶして広い道路にする計画があるんですよ」
博士の話で私は初めて杉並区の道路拡張問題を知った。それを阻止しようと立ち上がった岸本さんも高円寺を訪れると知り、演説する姿を初めて見た。
「変わらないこの国を変わるまで待っててもしょうがない。国より先に変わる自治体を作りましょう」
2日後、杉並区長選挙がスタート。第一声での呼びかけは、
「これは岸本聡子の選挙ではありません。私たちみんなの選挙です。区長を替えて、みんなでつくるみんなの街。私たちのことは私たちで決める」
その訴えに最も反応したのは高齢の女性たちだったかもしれない。長年杉並で暮らしてきた女性たち。映画にもその声が出てくる。
「70年前に決まったから、皆さんにはどいてもらうって(役所が)言うの」
「杉並を壊されたら、たまったもんじゃない」
投票志向の高いお年寄りを怒らせたらどんなことになるか。結果は開票日に示された。
・岸本 聡子 新人 76,743票
・田中 良 現職 76,556票
わずか187票差で現職を破った。でも、「何もかも、すべてはこれから。まさに始まり」。
新区長として自転車にサングラス姿で颯爽と杉並区役所に乗り込んだ岸本さん。待ち受けていたのは区議会の昔からの勢力。初の議会でさっそく新区長を攻め立てる。支援者が傍聴席から抗議の声を上げると、議長が「静粛に願います」。
1回勝つだけではダメ。選挙は続くよ どこまでも
規則により傍聴人は発言ができない。それなら議員として議場に乗り込み岸本区長を守ろう。半年後の区議選で新人が続々立候補。現職議員と対決した。その結果…。