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未解決事件を追う

「名前のない死者を蘇らせる」銃殺された16歳少女の身元を“似顔絵”で特定…「市民探偵」会計士の“特殊能力”

「名前のない死者を蘇らせる」銃殺された16歳少女の身元を“似顔絵”で特定…「市民探偵」会計士の“特殊能力”

『未解決殺人クラブ  市民探偵たちの執念と正義の実録集』より #1

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トウモロコシ畑で発見された少女の遺体

 2015年1月まで、タミーはカレドニアのジェーン・ドウ、またはカリ・ドウと短縮して呼ばれていた(アメリカの警察では身元不明遺体にジェーン、あるいはジョン・ドウという名前をつけることになっている)。彼女は身元不明の殺人事件被害者で、ニューヨーク州リビングストン郡にあるカレドニアという小さな町で発見された。

 農夫が10代の女性の遺体を、国道20号線沿いの雨に濡れたトウモロコシ畑で発見したのは、1979年11月10日のことだった。被害者の顔は濡れた地面にうつ伏せになっており、泥だらけだった。背中には銃弾が撃ちこまれており、遺体の胴体周辺を救命ブイのように包んだ赤いナイロンジャケットを貫通していた。

 黄褐色のコーデュロイのズボン、青い靴下、リップルソール[波形の底]の茶色い靴を履いていた。農夫は血液と死に満ちた湿度の高い空気にむせながら、数歩よろめいて道路に出た。そして近くの食堂まで走って向かい、警察に電話をした。

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 間もなく郡保安官代理と警察官が荒涼とした現場に到着した。2人はトウモロコシ畑と周辺の土地を数キロにわたってしらみつぶしに捜索したが、一晩中降り続いた土砂降りの雨に阻まれた捜索では、少女を殺害した犯人に結びつく証拠を探すことはできなかった。 

 捜査官たちは、そんな状況であっても38口径の使用済みの弾丸を、被害者の体の下から発見していた。殺人者はカリ・ドウを道端で銃撃し、その後トウモロコシ畑に引きずり込んだのではと捜査関係者は推測した。

写真はイメージ ©iStock.com

遺体の検証と目撃証言からわかったこと

 遺体の検証を進めると、右目のすぐ上に2発目の銃弾が発見された。銃弾が頭部に当たった瞬間、少女はたじろぐことも、振り向くことも出来なかったのでは。つまり、彼女は不意を突かれたのだ。

 カリ・ドウのポケットは裏返しにされていた。ズボンのベルトの穴にはアクセサリーが2つつけられていた。1つは鍵穴の開けられたハートで、言葉が刻まれていた。「この鍵を持つ男性が私の心を開けられる人」。

 2つめのアクセサリーは、そのハートを開ける鍵だった。当時、このキーリングはニューヨーク州高速道路にある休憩所の自動販売機で販売されていた。彼女は銀のビーズと、3つのターコイズ色の石をあしらったネックレスも身につけていた。石の1つは鳥の形をしていた。

 FBIにはほとんど物証がなかった。カリ・ドウの死体解剖では、彼女が缶詰のハム、トウモロコシ、ポテトを死の直前に食べていたことがわかった。当時、リマにある食堂でウェイトレスをしていたマージ・ブラッドフォードは警察に対して、カリ・ドウの特徴によく似た若い女性が、遺体が発見される前夜に食堂で食事をしたと証言した。

 マージによれば、少女は午後8時半頃に、彼女よりは年上の、チェックのシャツを着て黒縁のメガネをかけた白人男性と一緒に店を訪れたという。男性はカールした黒髪で、小麦色のステイションワゴンを運転していた。