アメリカには、人生をかけて未解決事件の謎を解き、時には警察よりも早く犯人にたどり着く「市民探偵」がいる。彼ら彼女らは、数千時間も費やして手がかりを探し続けることもあるという。いったいなぜ、そこまでして活動するのか?

 ここでは、実際に起きた事件とそれを解決した市民探偵たちの物語を綴った『未解決殺人クラブ  市民探偵たちの執念と正義の実録集』(大和書房)より一部を抜粋。身元不明遺体の頭蓋骨から似顔絵を描き、身元を特定する会計士のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

写真はイメージ ©iStock.com

◆◆◆

ADVERTISEMENT

2015年6月 ニューヨーク州リビングストン

「ガソリンスタンドにあるミニマートで、ラジオからこの曲が流れるまでは、大丈夫だったんだ」と、カール・コップルマンは両手を広げて言う。

「冷蔵庫からアイスティーを手にしてレジまで歩いて行くと、ロッド・スチュワートの『フォーエバー・ヤング』が流れてきてね。それで、もうだめだったよ」

「涙がぼろぼろと出てきてしまってね。涙でにじんでよく見えないのに、レジで僕の後ろに並んでいた男性が、『なぜフォーエバー・ヤングで泣いているんだ?』と、不思議そうな表情でいたのはわかったんですよ。

 とにかく、次々と涙が流れて、止まらなかった。止められないほどの涙が次々と流れたんです。自分への涙じゃありません。1979年に野原で遺体となって発見された、タミー・ジョー・アレクサンダーのための涙です」

会計士・カール・コップルマンの特殊で驚くべき趣味

「ロッド・スチュワートの『スーパースターはブロンドがお好き』(Blondes Have More Fun )というアルバムを聞きながら、2人でダンスするのが大好きだったと、タミー・ジョーの追悼式で友達のアリスから聞いたばかりでしたから。

 ミニマートで、日常生活を送る客たちに囲まれながら、その2人の姿を鮮明に思い浮かべていました。『タミー・ジョーは永遠に若者のままだ』と思い、涙が溢れました」

 会計士のカール・コップルマンには、特殊で、そして驚くべき趣味がある。身元不明の死者たちの、デジタル・イラストレーションを描くのだ。生きていたときの身元不明者の姿を彼が描写することで、身元を特定し、家族に答えを導き出すことができる。そしてタミー・ジョー・アレクサンダーの家族や友人のために、彼はまさにその作業をやり遂げたところだった。