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うずたかく大便が積み上げられた大便器

 普通避難所は不安を少しでも解消すべく、発電機が一晩中回っているものだが、その音も漏れてこない。が、うっすら懐中電灯の灯りが揺れ動いていた。目が慣れてきたら、100人近い人が体育館の片隅で息をひそめるように眠っているのが見えた。

 静かに中学校を後にして、ほかの避難所のひとつであろう、輪島市役所門前支所にたどりついた。こちらは発電機が回り、入り口近くは灯りがついていた。

 灯りがこれほど人を安堵させるのか、暗闇がいかに人を不安にさせるものなのか。

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 自動ドアを手で押し開けると、住民の方であろうか、雨具を着たままの中年男性がパイプ椅子を並べ泥のように眠りについていた。神戸や東北の避難所で見たような水のペットボトルや乾パンやおにぎりのはいった段ボールや毛布がうずたかく積みあがっている光景はそこにはなかった。トイレも小便器は使えるようだが、ウォシュレット付きの大便器にはすでに大便が積み上がり出るもんもひっこみそうである。

 代わりに段ボールを大便器がわりにしているようで、それらがトイレの外まで並べてあった。車に戻り、灯りを遠くに見ながら一夜を過ごした。メシは北陸道のサービスエリアで塩ラーメンを食ったきりだが、食欲もない。あれほど緊張を強いられた運転を15時間も続けても眠くもならない。朝は本当にやってくるのか、余震に文字通り震えながら不安と恐怖に襲われたまま、住民は2日目の夜を過ごす。

 明けない朝はない。そんな現実がうれしくないほどである。

 明るくなると見たくもない惨劇が嫌でも目に飛び込んでくる。

土のにおいが鼻を突く土砂崩れ現場で目に飛び込んできたもの

 それでも国道249号線では自衛隊の高機動車やトラックの車列が頼もしくも路面の裂け目をものともせず次々と通り過ぎる。車両前面には災害派遣、側面には所属部隊の標示が掲げられている。そしてそこには「第10師団 第35普通科連隊 愛知県守山駐屯地」と。奇遇である。昨年10月「74式戦車最後の日」で取材に訪れていた守山駐屯地の猛者どもとこんな孤立した山村で再会である。しかし再会を喜ぶ余裕なんぞない。ここ門前町同様、道路崩落やがけ崩れで孤立集落となった場所がここ周辺の山中に無数にあるはずである。いや家族団らんの最中に突如地震に襲われ、倒壊した家屋に閉じ込められ、今も救助を待つ人のもとに駆けつけなければならないのである。