文春オンライン

100円稼ぐための経費が1万6800円…東京から1時間のローカル線「久留里線」32年間の“変化”

2024/01/19

genre : ライフ, 歴史, , 社会

note

 内房線のホームで発車メロディーとして流れる童謡「証城寺の狸囃子」は、4番線には流れなかった。ディーゼルカーは北へ向かって走り出し、すぐに右へカーブして内房線と分かれると、木更津郊外の住宅地と平坦な田園風景がずっと続く。

駅の裏手は田畑が広がるばかり(横田)

 7時43分に到着した横田は、久留里線内に2駅しかない有人駅(もう1駅は久留里。他に馬来田が簡易委託)。ほぼ同時に上り列車も到着して、小さな駅で上下の列車がすれ違う。駅の裏手は乾いた冬の田んぼが広がっていて、東京近郊区間内とは思えないローカル線の光景だ。

左は上り・木更津行き、右は下り・上総亀山行き(横田)

 2駅先の馬来田には、列車行違い用の反対ホームが撤去されずに残っている。32年前に来たときには使用されていた。

ADVERTISEMENT

 木更津~久留里間の列車の運行本数は当時も今も1日17往復で変わっていないのだが、駅員が引き上げて簡易委託化された平成7(1995)年に反対ホームが使用中止となり、線路が撤去されたという。久留里線の合理化策は、その頃から少しずつ進められてきたのだ。

反対ホームの跡が今も残る(馬来田)

線内全駅でICカードが使えない

 ずっと平地だった車窓に、前方から車窓左手にかけて小高い丘陵が迫り、左右へカーブを繰り返した先に久留里駅が現れた。8時11分着。3両目の車両はホームからはみ出して、ドアが閉め切られている。ここで約半数の客が下車した。

最後尾の3両目はホームからはみ出している(久留里)
首都圏では珍しくなった構内踏切。遮断機はない(久留里)

 大正元(1912)年に建てられたという古びた久留里駅舎には駅員が配置され、自動券売機も設置されているが、SuicaなどのICカードで直接乗車することはできない。そもそも久留里線の全駅でICカードが使えないのだ。