だが、その後、旧国鉄のディーゼルカーをあえて導入して鉄道ファンの集客に努めたり、ランチクルーズトレインを運行して観光客を呼び寄せたりといった施策が一定の成果を挙げ、今では赤字ローカル線再生の好例として全国にその名が知られるようになっている。
上総亀山からそのいすみ鉄道の終点・上総中野まで、国道465号線は通じているものの、駅前から直通する公共交通機関はない。そこでやむなく、あらかじめ木更津で借りておいたレンタカーを運転して、幻の久留里線未開業区間の旅を自力で補うことにした。
新旧のトンネル、急勾配、細すぎる道…「幻の未開業区間」
人影のない上総亀山駅を出発すると、駅の南東側の林の中で藤林隧道という古いトンネルに出くわす。このトンネルの先の集落を抜けると、亀山湖畔へ通じる支流のそばに出る。橋の上から見える朽ち果てた水上遊歩道の跡が、この一帯の寂れた雰囲気を助長している。
山間部の沿道に人家は少なく、その後も新旧のトンネルが相次ぐ。真新しい蔵玉(くらだま)トンネルは拡幅工事が完了したばかりで通りやすかったが、急勾配で、対向車とのすれ違いが難しい細道もある。この区間に久留里線からの延伸路線が通れば関東有数の景勝路線となったかもしれないが、難工事は避けられなかったに違いない。
久留里線と結ばれるはずだったいすみ鉄道の終着駅「上総中野」で飛びこんできた「祝 全線開通」の文字
上総亀山駅から道路距離にして約14km、自動車をゆっくり走らせ、寄り道をしたりしながらも、ほとんど対向車と出会うことなく30分ほどで上総中野駅前に到着した。久留里線と結ばれるはずだったいすみ鉄道の終着駅であり、同時に、市原市の五井から南下してきた小湊鉄道の終着駅でもある。いすみ鉄道は、久留里線の代わりに小湊鉄道と接続することで、いちおうは房総半島横断鉄道の一翼を担っている。