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〈現地写真〉「半島という立地」「険しい地形」だけが原因じゃない…能登半島地震で“道路復旧”が遅れる“意外な要因”

〈現地写真〉「半島という立地」「険しい地形」だけが原因じゃない…能登半島地震で“道路復旧”が遅れる“意外な要因”

2024/01/23

genre : ニュース, 社会

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立地や地形だけではない…“道路啓開”が遅れている理由

 しかし、原因はそれだけではない。こうした場合、多くの要因が複雑に絡み合っているため、何が原因か断定することは非常に難しい。しかし、ここではそうした複合的な要因の一つとして、事前に道路啓開(けいかい)計画が未策定であったことを指摘しておきたい。

 大規模災害が発生して多くの人命が危険にさらされている時、救助活動として真っ先に行われることは何か、ご存知だろうか。それは、道路を切り開くことだ。他にも色々なことが行われるが、何よりも重要なのが道路である。

輪島市街

 地震や津波が発生すると、道路が寸断されて消防や自衛隊などの救助隊が現場に到着できない。ヘリコプターを活用する手もあるが、要救助者が数万人にも及ぶような災害現場では、あまりにも無力だ。海路は、災害時には港が被災していることも多く、今回のように海底が隆起したり、漂流物も多いとすぐには使えない。船舶だと拠点からの移動にも時間がかかる。大規模な救助隊を速やかに現場に投入するためには、陸路しかないのが現状だ。

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港や桟橋がない砂浜などに上陸できるクッション型揚陸艇「LCAC」が出動した

 人命救助の第一ステップとして、寸断されてしまった道路を切り開く必要がある。このことを“道路啓開(けいかい)”という。あくまでも救助隊を現地に送り込むことを目的とするため、とにかく車が通れればそれでよく、舗装する必要もない。発災から72時間が過ぎると人命が失われる可能性が高まるため、それまでに何としてでも命の道を切り開き、救助隊を送り込むことが至上目標だ。

 道路啓開と道路復旧は混同されがちだが、人命救助を第一義とする道路啓開と、インフラの再構築を意味する道路復旧とでは、まるで性質が異なる。

 人命救助を担う道路啓開の指揮をとるのは、消防庁でも防衛省でもなく、国土交通省。そして、道路啓開の最前線で任務につくのは、主に民間の土建業者さんだ。自衛隊も道路啓開を行うが、地元を知り尽くした土建業者さんには、かなわない面が少なくない。

 2011年に発生した東日本大震災を機に、道路啓開はそれまで以上に注目されるようになった。要救助者が3万5000人にのぼるなか、国土交通省東北地方整備局は、人命救助を第一義とし、発災当日から道路啓開を展開。まずは内陸部の縦軸ラインを確保し、そこから被害の大きい沿岸部へ複数の横軸ルートを切り開く計画が立てられた。その形から“くしの歯作戦”と命名された。

道路の両脇に瓦礫の山が広がる(宮城県気仙沼市、2011年3月19日撮影)

 地元の土建業者さんを中心に自衛隊や自治体が協力し、翌日には被災地に向かう11ものルートが切り開かれた。4日後、くしの歯にあたる15全てのルートを確保、7日後には被災地沿岸部の縦軸ラインがほぼ通れるようになり、作戦は終了した。

 この“くしの歯作戦”は、72時間以内に救助部隊を被災地に送り込むという道路啓開の至上目標を果たしたとして、今日まで語り継がれている。また、道路啓開の重要性を広く知らしめ、大規模災害に備えて、全国で道路啓開計画を事前に策定することとなった。