甚大な被害を受けた能登半島では“道路啓開計画”が未策定だった
道路啓開計画は、啓開を行う道路の優先順位をどのように決めるかや、必要な資機材・人員の確保、民間業者との協定、啓開の手順など、具体的な内容が盛り込まれる。ひとたび大規模災害が発生すると職員は業務で忙殺されるため、あらかじめ詳細に決めてあると動きやすいというわけだ。
南海トラフの巨大地震が囁かれている太平洋側では動きが早く、既に道路啓開計画が策定されている。その一方で、日本海側では策定が進んでいない地域があった。今回の震災で甚大な被害を受けた能登半島を管轄する国土交通省北陸地方整備局は「局内業務の優先順位を考慮した結果」として、道路啓開計画を策定していなかったのだ。
総務省は道路啓開計画の策定状況について調査を行い、2023年4月、国土交通省に勧告を出していた。全国どこででも大規模災害は起こり得るにも関わらず、地方によって対応に差が生じている。民間事業者から災害時に提供を受けられる資機材・人員量を把握しておらず、道路啓開に必要なリソースを確保できないおそれがある、などとして策定を促していた。
今回の能登半島地震でも、道路啓開計画が事前に策定されていなかったため、計画の立案や資機材・人員の確保等に時間を要し、初動に遅れが生じた可能性がある。
道路啓開の第一義は、人命救助だ。半島という立地的な要因、地形的な要因も非常に大きいが、事前の準備不足も否定できないだろう。時間も予算も限りがあるなかで、業務の優先順位を理由に道路啓開計画が未策定であったことは、仕方のない部分もあるかもしれない。また、救助活動については、道路啓開以外にも、悪路走破性が低い車両が中心に派遣されている緊急消防援助隊の問題や、消防と自衛隊との役割分担など、様々な課題があった。しかし、犠牲になられた方がいる以上、救助活動に満点はない。道路啓開計画が未策定であったことは、今後の教訓として活かさなければならないだろう。
東日本大震災の最前線において、事前に道路啓開計画もなく、現場から報告も上がってこない中でくしの歯作戦を立案・指揮した東北地方整備局長(当時)の徳山日出男さんは、後にNHKのインタビューでこう答えている。
「あのときの機転だけでできたことなんて、一つもなかったんですよ。備えていたことしか役には立たなかった。災害が起きる前にどれだけ準備できていたか、というのが非常に大きかったんです」
道路啓開計画が未策定のままになっている地域は他にもある。それに、災害に対する備えはそれだけではない。備えがあれば憂いが全くなくなるわけではないが、救える命は確実に増える。今回の震災を他人事とせず、全国各地で災害への備えが進むことを願っている。