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「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍首相にとって、GHQの置き土産である「放送法」は現行憲法と同様に元来、変えるべき目標だったのかもしれない。

放送法改変論議への反発

 安倍首相は決して「メディア嫌い」ではなかった。その陽性な性格はむしろテレビに向いていた。しかし、同時に彼は為政者だった。放送法の解釈変更やネットテレビへの傾斜といった一連の出来事は、耳の痛い意見は遠ざけ、都合のいい意見には耳を傾けたい、傍に置きたいというものだ。その思いは古今東西の為政者の生理と合致する。

 2017年10月のインターネットテレビ出演後に首相が発した言葉にテレビ界は震撼した。

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「ネットテレビには放送法の規制が掛からない。しかし、視ている人たちにとっては地上波もネットテレビも全く同じだ。日本の法体系が追いついていない状況だろうと思う。電波においても思い切った改革が必要だと思う」  

©文藝春秋

 首相はそう述べて、現行放送法を変える意向を示した。彼の改変論は、テレビが戦後60余年、順守してきた「公平」「公正」「事実の希求」という自律的な規律を破棄させ、ネットと同じように「規制がなく」「恣意的な」メディアに変えてしまおうというものだった。その改変発言は止まなかった。

「通信と放送の垣根がなくなる中、電波の有効利用のため放送事業の在り方の大胆な見直しも必要だ」(未来投資会議 2018年2月1日)

「ネットに新たな規制を導入することは全く考えていない。米国は公平性のフェアネス・ドクトリンを止めた。『自由に主張してください。その中で視聴者が選択すればいい』ということになった。テレビに規制が必要という人がいるが、そういうことも含めて規制改革推進会議で議論していきたい」(衆院予算委員会 2018年2月6日)

 2018年3月の共同通信の特報によれば、放送制度改変の方針は次のようなものだった。

・通信と放送で制度が異なる規制・制度を一本化する。
 放送法4条などを撤廃する。放送の著作権処理の仕組みを通信にも展開する。
・放送のソフト・ハード分離を徹底し、多様な制作事業者の参入を促す。
・NHKは公共放送から公共メディアへ移行させ、ネット活用を本格化させる。
 但し、NHKについては放送内容に関する規律は維持する。
・多様な事業者が競い合い、魅力的な番組を消費者に提供できる成長市場を創出する。
・電波放送に過度に依存しない番組流通網を整備する。

 これにより国民の財産である電波の有効活用を一層可能にする。

 これらの方針は、安倍政権が主宰する「規制改革推進会議」で議論するとも報道された。その一方で「隠れた目論見」として、インターネット優遇の新法も検討されていた。それは次のようなものだ。

・ネットと放送の異なる規制を一本化し、放送法を撤廃する(放送法撤廃)。
・放送に認められた簡便な著作権処理をネットにも適用する(著作権者の権利制限)。
・ハード、ソフトの分離で放送のメディア・パワーを弱体化させる(垂直統合の廃止)。
・ソフト事業者は免許不要として、希望すれば、同一条件で放送波を使える(放送事業者の弱体化と平準化)。

 そこには放送を骨抜きにし、同時にネットの伸張を図る意図が明確に示されていた。