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「でもアイツは天邪鬼だから…」WBC決勝戦で大谷翔平が登板できた背景には栗山監督の“すごいコミュニケーション術”があった

『上手に距離を取る技術』より #1

2024/02/09
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距離を詰め過ぎない

 唯一無二の天才相手とはいえ、力を持っているが干渉されたくないタイプの人が力を発揮するのに「自分の気持ちの高まりを大事にする」ことを、指導者の側がよく把握している例かと思います。

 私も大学生と接していて感じることですが、現代の若者は無駄な干渉をすると力を発揮できないのです。

 栗山監督は、大谷翔平という大選手と距離をうまく取りながら細やかに信頼を伝え続けて、その結果、チームが一つにまとまったのです。

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 栗山監督は、サヨナラヒットを打った村上宗隆選手に対しても、上手に距離を取っていました。四番の村上選手でしたが、準決勝のメキシコ戦では不調のために五番になりました。

 その村上選手に、栗山監督は「最後はおまえで勝つんだ」という言葉を投げかけます。その結果、村上選手は不調を脱しサヨナラ二塁打を打ち、チームを勝利に導くのです。バントの線もあった状況で、「お前に任せた。思い切っていってこい」とコーチを通じて伝言、村上選手は打つしかないなと思ったといいます。

 多くの言葉は必要ありません。不振やミスは織り込み済みだ、という信頼のメッセージを伝えたのです。

 このように、現代に求められるリーダー像も、一昔前から変わりました。

 相手を伸ばすためだからと、厳しく接するのではなく、選手が気持ちよくプレイできる環境を整え、ソフトな対応を心がけ、距離も詰めすぎないのが良いことがわかります。

 あたたかな雰囲気を持ち適度な距離感を維持することが、一般的に好まれる接し方なのです。

 私自身、あまりにも厳しく接すると、学生が授業を辞めていってしまうと気づいてからは、常に微笑みをたたえるようにしています。微笑みをたたえていると、相手に安心感を与えられるのです。

 指導の際に怒ったり怒鳴ったりすることは、少なくとも現代の日本社会では必要なく、適切な距離を取るには穏やかに接するだけでうまくいく、というのが私の実感です。

 熱すぎたり厳しすぎたりすると若い人は引いてしまうので、適温で接することが大事なのです。

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