問いかけのような、家族の歌ばかり作ってきた
箭内 さださんは今年72歳なのに、懐メロにならないんです。いまが一番走っているし、一番尖ってるし、一番しなやかで。そこが、さだまさしのすごいところです。
さだ 初めから時流に合わせた歌を作らず、時流に対する問いかけのような歌ばかり作ってきたからだろうね。
僕がデビューした頃は、ニューファミリーや核家族が流行していました。けれど、「親と同居しない」ということは子どもと同居しないっていうことだから、やがて夫婦2人になり、もしどちらかが先に亡くなったら、自分も1人で死を迎えることになるけど、それでいいのかなって思いがあって、家族の歌ばかり作ってきたんです。『精霊流し』『無縁坂』『秋桜』『関白宣言』…全部家族の歌だからね。
「古い家族観を手放さない、遅れているやつだ」と嫌われたこともあったけれど、50周年までやるとは思いませんでした。おまけに借金はするしね。
「さだまさしはロック」
箭内 でも、僕がさださんのことを大好きな理由の一つが、借金なんですよ(笑)。「長江の最初の一滴が見たい」という思いだけで30億の借金をして映画を撮影したという行動がかっこいいし、それを全部返したのもかっこいいです。
さだ いや、返すのは当たり前でしょ(笑)。借りたら返さなくちゃいけないんだから。
箭内 そうなんですけど、「さだまさしはロックだ」っていつも言っているんですよ。生きざまはもちろん、「人がやらないことをする」というのが僕はロックだと思うので。さださんは「僕をロックだって言ってくれるのは、(THE)ALFEEの高見沢(俊彦)と箭内君の2人だけだよ」って笑います。
さださんの歌って、時代に抗うだけではなくて、他の歌手の方が歌のモチーフにしない内容を歌っていますよね。それが表現者のあるべき姿だと思うのですが、さださんほど自覚的な方はいないのではないでしょうか。
さだ 確かに僕は、革命的なことをしてきたと思います。例えば音楽会に大道具を持ち込んだのも僕が最初なんですよ。それまでは黒幕や赤幕の前でマイクを立てて歌うのが主流だったんだけど、面白くないかなと思って。灯りが入ったらもっと綺麗だろうし、さらに道具があったら、今までと違うビジュアル表現ができるのではと考え、大阪のフェスティバルホールでコンサートをしたときに、直径1.5mくらいのボールを初めて吊るしたんです。
色を当てればトマトにもなればレモンにもなるし、リンゴにもなれば、みかんにもなる。それが日本のショービジネスで大道具を使った第一号です。初めは「お芝居じゃないんだから」って悪口も言われましたけど、「こっちのほうが良い」という自信があったから、どんどんやりました。その後、世の中がここまで派手になるとは思わなかったけどね。