『客観性の落とし穴』(村上靖彦 著)ちくまプリマー新書

 大学で教鞭を執る著者は、授業中に学生から次のような質問を投げかけられることがある。《先生の言っていることに客観的な妥当性はあるのですか?》。それは「数字で示してもらえますか?」「エビデンスはあるんですか?」といった質問と同じ類のもの。背後には、客観性と数値への過度の信仰がある。学生のみならず、今の社会全体にあるこの傾向に著者は警鐘を鳴らす。客観性には見落としてしまうものがあり、《客観性信仰・統計信仰》は社会の比較と競争を激化させ、自分たち自身を苦しめているのではないかと。

「本新書は中高生向けにわかりやすく書かれたシリーズですが、本書は中高年男性にも良く売れています。会社では常に数字を求められる。きっとそれが苦しい人が多いのでしょう」(担当編集者の橋本陽介さん)

 発売後、本書の内容に賛同する声が上がる一方で、とくにネット上ではエビデンス主義批判への拒否反応も強く出たという。

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「著者は客観性のデメリットを提示していますが、否定しているわけではありません。でもそこに過剰に反応してしまう人が多いのは、エビデンス重視の今の世相がよく現れていると言えるでしょうね」(橋本さん)

 客観性盲信の象徴ともいえる「それって個人の感想ですよね?」にどこかモヤッとする人は、その違和感の正体にも気づけるはず。

2023年6月発売。初版8000部。現在8刷6万2000部(電子含む)