主人公である子牛の「ぼく」は、もうじき食べられることが決まっている。最後にひと目だけ母牛の顔を見ようと、生まれ育った牧場に向かうが……。イラストレーターとして活躍してきた著者が、絵本アプリ・PIBOで10年以上前に発表した泣ける物語が、読み聞かせ動画で大ブレイク。TikTokでの再生回数は300万回以上を記録した。本書はその反響を受けて2022年に刊行された絵本だ。
「ネットの世界では既に多くの人に知られていたとはいえ、紙の本、それも児童書となると、届ける層は違ってくる。そのため、どう読者にアプローチするかに頭を悩ませました」(担当編集者の齊藤智子さん)
フォントやデザインにこだわり、さらに発表から時を経て変化した著者の考えを踏まえて、ラストも命の大切さをより強く打ち出すものに差し替えた。
書店では、本書を支持する売り場の担当者の発案でさまざまな宣伝施策が行われた。読者はがきの中にタレントの山口もえさんからのものがあったことが縁で、山口さんがレギュラーを務めるNHKのラジオ番組に著者が出演したことも。そのような積み重ねで、読者の輪が広がっていった。
「読者の年齢層は子供から大人まで幅広いです。高齢の方からは『昔飼っていた家畜のことを思い出した』という感想が結構届くのが意外でしたね」(齊藤さん)