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連載池上さんに聞いてみた。

「頭がおかしい」と女性を中傷し…トランプ氏に約123億円の支払い命令がくだった“背景”とは?〈池上さんが解説〉

池上さんに聞いてみた。

2024/02/08

genre : ニュース, 国際

note

Q トランプ前大統領に123億の損害賠償! これってよくあることなのですか?

 ドナルド・トランプ氏が女性作家のジーン・キャロル氏に対する性的暴行を否定し、名誉を毀損したとして損害賠償を求められた訴訟で、1月26日、トランプ氏に総額8330万ドル(約122億円)の支払いを命じる判決が下りました。巨額ぶりに驚くのですが、アメリカではよくあることなのでしょうか? それとも彼の例が異様なのですか?(30代・男性・公務員)

ドナルド・トランプ前大統領 ©AFLO

A アメリカの裁判制度で認められている「懲罰的損害賠償」です

 これは州によりますが、アメリカの裁判制度で認められているものです。

 名誉毀損でトランプ氏を提訴したのは、女性作家。1990年代半ばにトランプ氏から性的暴行を受けたとして、2023年5月に性的暴行の被害と名誉毀損が認められ、トランプ氏に約500万ドルの賠償支払いを命じる評決が出ていました。

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 ところが、その後もトランプ氏がテレビやSNSでキャロル氏の主張について「頭がおかしい」などと中傷を重ねたために、さらに名誉を傷つけられたと訴えていたものです。この裁判になってもトランプ氏による悪口が止まらなかったため、懲罰的な金額になりました。

 損害賠償裁判で、加害者の責任が認められた際、原告が要求した損害賠償額ばかりではなく、加害者の悪質性が顕著だと陪審員が判断すると、さらに賠償額が上乗せされる仕組みがあるのです。

※写真はイメージです ©AFLO

 アメリカでの懲罰的損害賠償で有名な判例は1994年にニューメキシコ州・アルバカーキであったマクドナルドのコーヒー事件です。

 マクドナルドのコーヒーを買った高齢の女性がコーヒーをこぼして火傷を負ったとしてマクドナルドを訴えました。その結果、16万ドルの損害賠償が認められただけでなく、「マクドナルドの対応が不誠実だ」と判断した陪審員が270万ドルを上乗せする懲罰的損害賠償を言い渡しました。

 当時はこれが大きなニュースになりましたが、被害者はこれほどの賠償金を望まず、その後、これよりずっと低い金額で和解しています。

 また、マクドナルドは裁判後、被害者の要望通りコーヒーの温度を下げています。

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