これまた劇場上映を経ずに配信された必見の作品である。『プロミシング・ヤング・ウーマン』で鮮烈な長編映画監督デビューを果たし、アカデミー脚本賞を受賞した新鋭エメラルド・フェネルが監督・脚本を務めた『Saltburn』がAmazonプライム・ビデオで密かに配信されている。現代社会や現代人がひた隠しにする本性を暴き、辛辣な一撃を食らわす彼女の手腕は実に見事。時代を牽引するクリエイターの待望の新作だ。
舞台は英国の名門オックスフォード大学から始まる。陰鬱な青年を演じさせたら天下一品、バリー・コーガン演じる主人公のオリヴァーは優秀な成績を収めた奨学生。野暮ったくてガリ勉タイプの彼は入学早々、広場で女子学生らと和やかに談笑する高身長の爽やかイケメン、フィリックスに目が留まる。その眼差しは嫉妬というより憧れだ。階級意識が根強い学内では彼のような貴族出身の裕福な特権階級が幅を利かせている。勉強ができても家柄、経済力、外見の圧倒的な差で近づくことすらできない存在。だが、オリヴァーはある日、ひょんなことからフィリックスと知り合い、友人となる。さらには、ひと夏の間、彼の一家が所有する広大な土地「ソルトバーン」に招待され、彼の一族と共に暮らすことになるのだ。
宮殿のような邸宅を案内されるワンカットシーンは圧巻。
「ヘンリー7世の飾り棚に……ルーベンスの駄作が数枚」
客人オリヴァーに屋敷の所蔵品の数々を屈託無く紹介してゆくフィリックス。そこに他意はない。彼にとっては生まれ育った家に過ぎないのだ。一方、非・上流階級の者はその説明を額面通りには受け取れないだろう。オリヴァーの心に巣くう歪んだ感情はやがて羨望から狂気へと変貌する。
特権的な地位や富は暴力的な収奪の上に成り立つという歴史をシニカルに反転して描く。ラストは映画史に残る衝撃のダンス。お見逃しなく。
INFORMATION
『Saltburn』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CKLSBCTM