中国海警局の艦船が今年1月、尖閣諸島周辺を飛行する自衛隊機に対して、退去を求める警告を複数回おこなっていたことがわかった。これは習近平政権の強硬な対外姿勢を反映したものとされ、日本では中国に対する警戒感があらためて高まっている。

 いっぽう、中国のより強い軍事的脅威にさらされているのが台湾(中華民国)だ。だが、中華圏の軍事の伝統を引き継ぐ台湾では、「敵」の情勢を徹底して分析することで自国を守らんとする、三国志さながらの「軍師」たちも活動している──。約1年前、私はそんな一人に話を聞いた。

空港をミサイルで破壊して…「台湾の孔明」が語る中国の侵攻シナリオと実際の可能性

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 記事に登場した人物は、人民解放軍研究を専門とする軍事学者で、しばしば台湾の国防白書の顧問委員にも名を連ねる淡江大学国際事務與戦略研究所助教の林穎佑(Ying Yu, Lin)氏だ。今年1月、台湾総統選の取材のために現地を訪れた私は、彼にあらためて現在の軍事情勢を尋ねてみることにした。

林穎佑氏。2023年9月28日、台湾初の国産潜水艦「海鯤」の進水式にて(本人提供)

中国、ミサイルに水を注入?

──仮に人民解放軍が台湾を攻撃する場合、最も大きな鍵になる兵器がミサイルです。しかし、今年1月上旬、中国の戦略ミサイル部隊の運用について興味深い報道がありました。米国情報機関関係者の分析によると、燃料の代わりに水がミサイルに注入されていた事態があったといいます。

 この報道については、個人的にはちょっと話が誇張されているような印象を受けています。ただ、ここで重要なのは「ミサイルに水注入」というインパクトの強いエピソードそれ自体よりも、ロケット軍の内部で燃料の転売などの行為がおこなわれていたとみられることです。

──中国のロケット軍は、汚職によって正常に機能していなかった可能性がある。

 はい。ちなみに中国における戦略ミサイル部隊はもともと「第二砲兵部隊」と呼ばれてきましたが、習近平政権下の軍改革で2015年12月31日に「ロケット軍」(火箭軍)と改称され、人員や予算が大幅に強化されました。