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 「先求紅,再求専」(政治的正しさを専門性に優先させる)という人事です。現在の人民解放軍のロケット軍は、第二次大戦初期のソ連や、文化大革命直後の中越戦争(1979年)での中国の軍隊とやや近い構図がある。つまり、経験豊かな将校を大粛清したことで、パフォーマンスが大きく落ちていると思われます。

中華民国軍の陸軍兵士。昨年1月、軍事演習を取材した際に撮影  撮影:安田峰俊

電撃解任された国防部長の素顔

──昨年10月には、国家側の軍事のトップである李尚福国防部長(防衛大臣に相当)も、就任からわずか7カ月で解任されています。これは中国の軍事戦略にどう影響しそうですか?

 中国の国防部長は指揮権がなく、軍事外交を担う担当者です。なので李尚福の解任それ自体について、たとえば台湾に対する方針転換などの影響は考えにくい。

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 ちなみに、2023年6月にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議で実際に李尚福と接した人の話では、彼は覇気のあるタイプではなく、中国の軍人にはめずらしい人物だったようです。航空宇宙分野の研究者出身で、学究肌だったんですよ。外国の記者の質問にもあまり答えられていなかったようです。

 彼の解任については、派閥の要素が絡む政治的背景もいろいろ伝えられていますが、確たる証拠がないので私はなんとも言えません。ただ、李尚福の解任後に任命された董軍という人物は、注目すべきです。

──経歴を見ると、董軍は海軍出身なのですね。

 はい。中国とロシアは2015年に合同海上演習をおこなっているのですが、董軍はこの演習の中国側責任者だった人物で、ロシアと密接に交流した経歴があるんです。また、2020年に中国はパキスタンとの間では初となる合同海上演習をおこなっていて、董軍はこちらでも責任者を務めていました。加えて2021年まで、彼は米中間の戦区レベル対話にも関わっていた可能性が高い。

昨年1月に筆者が見学した中華民国陸軍の訓練。台湾南部にヘリボーン強襲をかけて侵入した人民解放軍役の兵士(赤ヘルメットの兵士)を、戦車と通常兵器で殲滅する訓練がおこなわれた  撮影:安田峰俊

──ロシアもアメリカも知る海軍大将(中国での呼称は上将)ということですね。

 軍事外交を担う人物としては、董軍のほうが李尚福よりも適性があります。また、人民解放軍の軍隊としてのありかたは、もともとソ連の影響が強いですから、ロシアに強い董軍は重要なのです。ウクライナ戦争の戦況も、人民解放軍にとっては重要な関心事ですからね。