ところが2022年8月、中国が台湾海峡に向けて(アメリカのペロシ下院議長の訪台に抗議して)大規模なミサイル演習をおこなった際、人民解放軍側は16発の発射を予定していたとみられるにもかかわらず、台湾側では11発の発射しか確認できなかった。つまり、発射予定のミサイルの3分の1は機能しなかったようなのです(前回記事参照)。
理由は軍の腐敗と、ミサイルの「稼働率」の低さでした。もちろん、習近平はこの失敗を重く受け止めたと考えられます。思うようにミサイルを飛ばせないならば、台湾併合なんてできませんからね。ゆえに進められたのが、軍の腐敗の摘発と責任者の交代です。
中国ロケット軍で大粛清が発生
──そういえば、ミサイル演習が「失敗」した翌年となる昨年7月、中国ではロケット軍の司令官が就任からわずか1年半で交代する異例の人事が発表されていますね。
林 そうです。前任のロケット軍司令だった李玉超、副司令の劉光斌らはいずれも腐敗を理由に解任されたとされており、さらには過去に副司令を務めた張振中が失脚、呉国華が「病死」しています。呉国華の死は実際は自殺だったとメディアでは報じられていますね。
──すさまじい大粛清ですね……。
林 ええ。しかし、その後の新人事にも問題がありそうなのです。李玉超に代わり司令官になった王厚斌は、海軍の人事畑の出身。過去に実戦部隊を指揮した経験はおそらくなく、核兵器や原子力潜水艦に関連する部署にもいなかったとみられる人物です。
また、ロケット軍上層部は司令官と同時に政治委員も交代したのですが、こちらで新たに抜擢されたのは、空軍出身の徐西盛でした。彼はもともと福州の基地にいた人物で、かつての「上司の上司」にあたる許其亮(2007~2012年に空軍司令官)は、福建省勤務時代の習近平と一緒に軍の仕事をした経験があります。すなわち、王厚斌にせよ徐西盛にせよ、戦略ミサイルのプロパーではないにもかかわらず、習近平が個人的に信頼する人物を要職につけた形です。
──企業に置き換えると、営業生え抜きの管理職をお家騒動で大量にクビにしたあとで、社長が自分に懐いている人事部の部長を営業本部長に充てるような形ですね。