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 かつて、九十九里浜では地引き網が盛んだった。特にイワシがよく獲れて、江戸時代には九十九里のイワシを乾燥させた干鰯が肥料として重宝されていたという。しかし、いまでは地引き網は廃れてしまって、九十九里は海水浴場に姿を変えている。

 田園地帯の中には、ひときわ立派な建物がいくつか建っている。その中でも特に目立つのが、長生村役場。八積駅からは歩いて30分くらいの場所にある。かといって、役場の周りに市街地があるわけでもない。村役場には取り立てて用もないので、目の前を通り過ぎるだけだ。そんな役場の脇を流れる小さな川は、田んぼに水を引く農業用水なのだろうか。

“海の近く”でも“水がない場所”だった「長生村」

 いまでこそ一面の田園地帯の長生村だが、実はちょっと前までは排水不良に用水不足と、なかなか農耕には適さない土地だったという。そこで、利根川から農業用水を引く用水路の整備が進められた。戦後完成したその用水路が、両総用水だ。長生村だけでなく茂原市など九十九里平野一帯の農業の発展に大きく貢献した。

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 海のそばの平地でも、簡単に水が得られない。いま、当たり前のように水を飲んだり使ったりできるのは、先人たちの努力のおかげ、なのですね。

 ともあれ、長生村はどこまで歩いても田んぼである。きれいに区画整理されているし、平地だから起伏もない。淡々と、ひたすらに、同じような景色が続く。ただ、完全に見晴らしの良い田園地帯というわけでもなく、ところどころに木々に囲われた細い道がある。

 

 そういう道沿いにはだいたい古くて立派な家が並んでいて、道そのものも曲がりくねっている。きっと、まっすぐな道は区画整理事業で新たにできた道、曲がりくねった道はそれ以前の古い道、ということなのだろう。林に囲まれているのは風から家を守るためにちがいない。