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「日本に彼も連れていく」とブライアンが電話で…クイーン来日公演でみせた、終わらない“フレディ伝説”

クイーン+アダム・ランバートが日本で圧巻のライヴ

2024/02/14
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 ギリシャ哲学で究明の対象となった「プネウマ」という概念がある。大いなるものの息、存在の原理、聖なる呼吸、超自然的な存在、善なる天使、悪魔など多義を含んでいるという。声は、人間が外部へと吐き出す呼気・息とともに発せられる。

 音源などに残されたフレディの歌声には、まさにプネウマが宿る印象が強く、その息のぬくもりが今なお現代のファンたちの頬を撫でるともいえる。

©getty

ブライアンが1人でステージに現れ…

 今回のライヴでも、ギター片手にブライアンのみがステージ中央に現れる場面があった。ブライアンにピンスポットが当たり、フレディによるバラード曲「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」と、ブライアンの曲で日本語の歌詞を含む「手をとりあって」を演奏した。

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 前回の来日公演と比べて、記憶の糸を繊細に手繰り寄せるかのように、静謐で囁くようなギターの音色だった(2月7日、京セラドーム大阪)。

「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」の終盤、フレディが映像で登場すると、ひときわ大きな歓声。艶とまろみを帯びた声が流れた。映像のフレディは、シングアロングする観客とコール&レスポンスを展開した。

 日本でも何度か披露している演出スタイルだが、ブライアンたちがここに込めているのは、忘れがたなきフレディへの思いだけではない。若き日のクイーンの、世界でのブレークスルーを後押しした日本のファンへの深謝の念を重ねているのだ。

1975年、初来日したときのクイーン。初めての日本公演は、日本武道館で行われた ©getty

フレディを日本に連れてきてくれた

 何万人もの観衆は、ほぼ半世紀もの間、歌い継がれてきたこの曲を通じて、自分たちも時を超え、年代を超え、新旧ファンの垣根も超え、クイーンの、フレディの日本への真情を受け止めて感動する。

 たとえ錯覚であるとしても、ブライアン、ロジャーが一貫して大事にし、彼らの心に生きるフレディを日本に連れてきてくれた、という思いに浸る。生のフレディのライヴに間に合わなかった新しい若いファンたちも、フレディのステージを追体験するかのような感覚になったはずだ。

 生きてこの場にいることができてよかった――いと麗しき春にあまたの花々が咲くように、観客たちは一斉に心のつぼみを押し開いて、歓喜とともにブライアン、ロジャーたちに感謝の念を送り返す。

 会場を埋め尽くしていた激しい活気は、いつしか優しい哀愁に席を譲っていた。そこここに、フレディのプネウマが漂っている。ブライアンやロジャー、アダムの献身によって、ぬくもり豊かで広やかな「不在」が遍満している……。

 ライヴからの帰り道、50年来のファンの多くは、ふと、フレディが生前以上に大きな存在になっていると直感したかもしれない。そして、その時、知らず知らずのうちに、自分たちもフレディ伝説の歴史に参加してきたことに思い当たっただろうか。

「日本に彼も連れていく」とブライアンが電話で…クイーン来日公演でみせた、終わらない“フレディ伝説”

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