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「愛はどんな形であっても愛だ」 <ソ連占領下の若き兵士の回想録>が<エストニアの同性婚合法化>の原動力になるまで

『Firebirdファイアバード』監督、キャストインタビュー

2024/02/17

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画, 国際, 社会

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「僕たちの求めているロマンだ!」

――オレグさんはセルゲイが愛する将校ロマン役を演じました。今回作品に参加した経緯や、セルゲイ役のトムさんと共演した感想を教えてください。

オレグ・ザゴロドニー(以下「ザゴロドニー」) ウクライナ出身の僕は、当初は英語が喋れなかったんです。オーディション用の素材を送ったあと、いよいよトムと対面して共演のシーンを演じるという局面で「どうしよう、英語は喋れないのに!」とあわてたんだけど「大丈夫、大丈夫」と言われて…「僕たちは決して立派な演技を求めているわけでなく、素の君を出してベストを尽くしてくれればいいんだよ」と。そういう受け止め方をしてもらえて、とてもやりやすくなりました。そのときから、トムはいい相手役として、演技で僕を助けてくれました。

ロマン役のオレグ・ザゴロドニーはウクライナ出身 ©佐藤亘/文藝春秋

 そして、日付もはっきり覚えているのですが、2018年の5月28日から、彼らに合流したんです。準備期間もたっぷりもらえたので、撮影開始前の3カ月間はリハーサルをしたり、トムとNATOの基地で軍隊の訓練を受けたり。それが役作りの上で、とてもいい体験になりました。それからは、監督やトムと一体となり、話し合いを重ねていきました。作品を深く掘り下げながら長い旅を歩む…そんな思いで撮影に臨みました。

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――トムさんがオレグさんに初めて会ったときの印象は?

プライヤー 僕が初めてオレグに出会ったのは、モスクワでのオーディションのとき。僕と監督は本当に多くの俳優たちに会ってきたけれど、オレグに出会った瞬間、「僕たちの求めているロマンだ!」と感じました。人となり、雰囲気、存在感…僕たちが書いたロマン役に限りなく近かったんです。

© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms

 そして5年ほどかけてこの作品を作ってきて、参加したみんなと本当の家族のような関係になることができて、改めて不思議な感じがしています。プライベートな時間を長々と過ごしたわけではないけれど、心から通じ合う仲間です。

――言語が違うことで、オレグさんとのコミュニケーションに難しさはありましたか?

プライヤー 当初は言語の壁がありました。僕はロシア語もウクライナ語もできなかったし、オレグは英語ができなかった。同一言語を使っていれば、相手のことをある程度知ることができる。でもそれもできないまま制作が進んで行きました。

言語の壁があったからこそ、目線やボディランゲージでの気持ちの交差を表現できた ©佐藤亘/文藝春秋

 でもその壁は不思議なことに、乗り越えられたというか、むしろ言語の壁があったからこそ、この作品の恋愛関係を演じて行くのに役に立ったんだと思います。これは禁断の愛のストーリーであり、2人の間で交わされる感情はセリフではなく、目線だったりボディランゲージで表現されました。そういう気持ちの交差が表現できたのは、むしろ言語の壁があったことが功を奏したのだと思います。