文春オンライン

「愛はどんな形であっても愛だ」 <ソ連占領下の若き兵士の回想録>が<エストニアの同性婚合法化>の原動力になるまで

『Firebirdファイアバード』監督、キャストインタビュー

2024/02/17

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画, 国際, 社会

note

ウクライナ出身の俳優として将校ロマン役を演じ、今思うこと

――ここ数年の世界的に大きな出来事として、コロナが流行したり、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まったりしました。撮影はその前に終わっていたのでしょうか?

ペーテル・レバネ監督(以下「レバネ監督」) 撮影自体は2018年の9月に行ったので、コロナの流行もウクライナ侵攻もまだ始まっていませんでした。ただ、コロナの影響で、2020年を予定していた公開はだいぶ遅れましたね。

――オレグさんは今回、軍人であるロマン役で戦闘シーンも演じましたが、現在のロシアとウクライナの情勢についてどのように感じていらっしゃいますか?

ADVERTISEMENT

ザゴロドニー 正直、僕はウクライナ侵攻が始まる前から、ロシアという国家に対し、不安を抱いていました。ソ連時代から、国民が人間性をオープンにすることは難しく、自分に必要なものを探し求める自由がない。そんな風に感じていました。

 昔は「五カ年計画」という政策を打ち出す独裁者が存在したし、今でも国の体制やイデオロギーに国民を従わせている。そういう社会主義的な国家では、個人の思いや希望がないがしろにされてしまう。ウクライナへの侵攻が始まって、そんな印象をいっそう強く感じるようになりました。僕はときどき「もし今の時代にセルゲイとロマンが生きていたら?」という想像を巡らせることがあります。今のウクライナとロシアの事態を見たら、彼らはどう決断し、どう生きただろうか、と。

「もし今の時代にセルゲイとロマンが生きていたら?」と想像するというザゴロドニー(右) ©佐藤亘/文藝春秋

 それにしてもロシアという国には滑稽なところがあると思いますね。表向きはゲイを禁じているのに、明らかにゲイであるポップスターが「僕はプーチンを支持する」と、プーチンと同じ舞台に立って歌ってるんだから…。彼の頭の中では、その矛盾をどうやり過ごしているのだろう。これをブラックコメディとして描いてみたら面白いかもしれないですね。

エストニアでの同性婚を合法化するきっかけに

 2021年エストニアにおいて本作がLGBTQ映画として初めて一般劇場公開され、大ヒット(同時に配信も行った)。映画のメッセージは大きな反響を呼び、その2年後である2023年に国会で同性婚法案が議決され、ついに今年1月、エストニアは世界で35か国目の同性婚承認国となった。

――『Firebirdファイアバード』はエストニアの社会に大きな影響を与えましたね。

レバネ監督 映画には大きな力があると信じています。映画は、世の中や人生の見方を変えられる、他人への見方を変えることができる。そういう影響力があるんです。私が映画を作るうえで目指しているのは「共感」、そして「相互理解を深めていくこと」。だからエストニアで目標を実現できたのはとても嬉しいです。

長年ゲイアクティビストとして活動してきたペーテル・レバネ監督 ©佐藤亘/文藝春秋

 映画の世界に限らず、2010年から私はずっとゲイアクティビストとして、いろんな討論会に出たり、いろんな団体のトップリーダーと話したりして、同性愛者の権利を求めるさまざまな社会運動を行ってきました。活動の成果があって世の中は大きく進歩してきていると実感しています。社会の動きを後押しして促進すること、それが私が情熱を注いできたことであり、これからの目標でもあります。