終局後、対局室でのインタビューがすむと、両対局者は大盤解説会に移動し挨拶をした。菅井が一瞬の笑顔を見せ「また、明日からも頑張りましょう!」と言うと会場からひときわ高い拍手が響いた。
「でもですね、振り飛車党はあきらめませんよ!」
本局について、現場の棋士たちに振り返ってもらった。
中村は、「馬と竜の使い方など、印象に残った手はたくさんありましたが、一番は▲3四歩ですね。ああいう発想は……」とその場面を思い出して感嘆の表情を浮かべていた。
戸辺は、菅井と同じ振り飛車党の視線でシリーズを振り返っていた。
「藤井さんは用意周到でしたよね。特に第2局、菅井さんが△5四銀と出たのに対して、▲6六歩ではなく▲6六銀に変えたのが印象に残ります。菅井さんも意表をつかれたのではないでしょうか(※藤井が対三間飛車で▲6六銀はほとんどなく、対菅井戦ではゼロ)。その後、穴熊に組んで玉側から戦いを起こした手順は秀逸でした。
第1局が菅井さんのペースで進んでいただけに、その将棋を勝てなかったのが大きかったですね。そして第4局は藤井将棋の新しい一面を見ました。強く斬り合う将棋ではなく、こういう指し回しもできるんですね。でもですね、振り飛車党はあきらめませんよ!」
日本将棋連盟理事として藤井のタイトル戦に何度も同行した森下卓九段に、藤井の時間の使い方について聞いてみる。
「藤井さんは余計なことは何も考えていないのではないでしょうか。ここはこの一手だからノータイムで指す。当然の手でも先を読み切るために長考すると。その基準となる読みの速さと精度が他の棋士と違いすぎるだけで(笑)」
前期の挑戦者・羽生九段はどう見たか
前期王将戦で藤井と戦った羽生善治九段にも話を聞いた。
「菅井さんの出来が悪かったとか、調子が悪かったわけではなくて、藤井さんがうまく指しましたよね。難しい局面から良くしていくのが実にうまい。第4局では▲1六飛が印象に残りました。あんな狭いところに飛車を打つ手は考えませんでした。視野が広いですよねえ。
大山先生に似ている? たしかに大山先生は対抗形の居飛車側を持って、振り飛車にジワジワと圧力をかけて勝つのがうまかったですね。確かに第4局の指し回しは似ていますね」