藤井聡太王将に菅井竜也八段が挑戦する第73期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、年明け早々の2024年1月7日に開幕した。第1局から藤井が3連勝し、防衛まであと1勝。第4局は2月7・8日に、東京都立川市「オーベルジュ ときと」で行われた。
「藤井の牙城を崩すのは菅井か?」との声も
2人は昨年春の叡王戦五番勝負でも戦っているが、そのときは内容的には菅井も押していた。
叡王戦は持ち時間4時間のチェスクロック方式(1秒から消費時間として計測)ということもあり、藤井は時間に追われて余裕がなかった印象が残っている。第1局で藤井が駒を落とし、すわ時間切れ負けか、なんて場面もあった。結果としては藤井の3勝1敗で防衛だったが、第3局の逆転がなければ、逆の目が出てもおかしくなかっただろう。
そして菅井は、叡王挑戦失敗に消沈することなく、自身初の王将リーグ入りを果たした。勢いそのままに羽生善治九段・渡辺明九段・豊島将之九段・永瀬拓矢九段・佐々木勇気八段・近藤誠也七段を相手に、永瀬に負けただけの5勝1敗でリーグを制して挑戦権を得た。
今回はファンの期待も大きかった。アマチュアのプレイヤーは振り飛車党が多く(私もアマチュア時代は振り飛車党だった)、菅井を応援する声が大きかった。八冠となった藤井の牙城を崩すのは菅井の振り飛車ではないかと。
開幕局は、その期待を裏切らなかった。先手番菅井の三間飛車から相穴熊に。好調を支えてきた形だ。菅井得意の押したり引いたりの駆け引きでペースを握る。まだ歩以外交換になっていないのにもかかわらず、菅井が2時間近く残しているのに対し、藤井の残り時間は30分となった。だが、74手目△4五歩と打ったのが流れを変えた。菅井の銀の進出を防いだだけの渋い歩打ちだが、その後、菅井に緩手があり、藤井はと金攻めでリードを奪い、攻防の自陣角で勝負を決めたのである。
第2局、第3局は藤井が快勝する。やや変調を思わせる菅井は、あとがなくなって第4局を迎えた。
藤井猛九段が「あれは常識破りの手ですよ」と評価
後手の菅井は4手目に角道を止めずに飛車を振る。2013年、C級2組順位戦の藤原直哉七段戦で初めて採用した「菅井新手」だ。居飛車の出方によっては乱戦にも持久戦にも、石田流にも向かい飛車にも変化する。
藤井猛九段は、『将棋世界』2015年7月号での佐藤康光九段と菅井との座談会で、この手について語っている。
「菅井さんの指した4手目△3二飛がすごく斬新だなと感じています。評価している人は少ないように思いますが、あれは常識破りの手ですよ。あそこで△3二飛は、『ない手』とされていた。従来、悪いとされていた手を、そうでもない、互角に戦えますよといった感じで覆す手は、もっと高く評価されていいと思いますね」