また後日、藤井本人にも話を聞くことができた。
「57手目での長考の中身ですか? 第一感は▲3四飛でしたが、△3三飛▲3六飛△同飛▲4五銀だったんですが△2六飛ではっきりしないなと。それで▲1六飛を深く読みました」
対振り飛車についても聞いた。
「時間があったので対振り飛車を研究しました。第2局の▲6六銀は、直前まで歩にするか銀にするか迷っていました。悩んだ末に銀で行こうと決めました。4手目△3二飛も、菅井さんが直前に(1月31日のA級順位戦・佐藤天彦九段戦で)採用していたので対策を研究していました。ただ序盤早々最速で(笑)、相手の予想が外れましたが。ええ序盤の▲4七銀もその場で考えました。シリーズで印象に残ったのは第1局の△4五歩です」
どこにでもいそうな普通の21歳…ではなかった
2日制のタイトル戦で初めて対抗形を戦い、普段とは違う重厚な指し回しもこなした。すべての分野で経験値を積み、対抗形での土地勘もできた。藤井のGPSは、どんな場面でも、裏道に入っても正確にナビゲートする。
彼に苦手はあるのか? あっそうだ、絵が苦手だった。クラウドファンディングのために藤井が考案した「パイナップル星人」のシュールなキャラクターはどうしてできたのか。打ち上げの席で話を振ってみた。
「実は事前には何をやるのかまったく知らされていなくて。絵を描くことだけはしないように思っていたんですが、先に羽生先生が描かれたので受けがなくなりました(笑)」
と苦笑した。
対局中は厳しい表情を崩さなかったが、こういうときはどこにでもいそうな普通の21歳の青年だ。私にとっては4ヶ月ぶりのタイトル戦の現地観戦ということもあり、鉄道の話(南武線にも詳しかった)、詰将棋創作の話もした。2013年、まだ11歳のときに詰将棋パラダイスに初入選した、あの問題すごいよねと言うと、
「いえ、たいして難しい問題ではないですから」
そうですか、あれが難しくないですか……(角の限定打、合い駒4回、打ち歩詰め回避、29手詰め!)。やはり普通とは言えないか。