毒親という言葉が浸透して久しい。「毒になる親」で、毒親。だがその定義は曖昧である。ゆえに、子どもが親との関係性に深刻な悩みを抱えていても、もう片方の当事者である親がそれを軽視していたり、当事者を取り巻く人々が問題を矮小化することがままある。
「親」はなぜ「毒親」になってしまうのか。当事者の子はいったいどのような辛苦を抱えているのか。どのようにすれば、親との関係性を改善できるのか。弁護士としてさまざまな家族問題に取り組み、毒親問題の相談も積極的に受任する吉田美希氏に話を聞いた。
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毒親問題に関する依頼を弁護士が断る理由
「まず、毒親問題を扱う弁護士は本当に少ないんです。
弊所には遠方から相談にお越しになる方もいらっしゃいますが、皆さん『最初は地元の弁護士に頼んだけれど、できることはないと言われてしまった』とおっしゃいます。
離婚訴訟などであれば、離婚をゴールに設定できますが、毒親問題は終わりがないだけに依頼を引き受けてもらいづらいのです。
くわえて、毒親問題に関する法律がないことも、依頼を断られやすい理由の一つに思います。一般社会で、家族間の関係を絶つ場合には『絶縁』という言葉が用いられますが、絶縁に関する法律はありません。当人同士が関わらないようにしたとしても、親の扶養義務は消えないし、相続権が消滅するわけでもないのです。
また、弁護士側に立って考えると、仕事を引き受けても経済的な利益が少ないという点も難しいところです。
同業者の話を聞くと、相手方から恨みを買いやすい性質の案件であるということも毒親問題を扱うハードルが高い一因だと感じています」
子供の気持ちを尊重する態度が欠落していた両親
毒親問題は多くの弁護士が敬遠する案件。それにもかかわらず、吉田氏はこれまで親子問題をはじめ200件以上ものトラブルを解決に導いてきた実績がある。その原動力は自身の経験が大きいのだとか。
「私自身も両親との関係性がうまくいかず、思い悩んだ過去があるんです。
両親は、自分たちが良いと判断することには徹底して力を注ぐタイプで、彼らにとってその最たるものは教育でしたので、教育は十分に受けさせてもらいました。一方で、子どもである私の気持ちや立場を慮る・尊重するといった態度が徹底的に乏しく、私は幼少期から寂しさを抱え続けていました。
周りの友人や学校の先生からは、教育熱心で素晴らしい家庭と思われていたようですが、両親からは『金魚のフンみたいについて来ないで!』と言われたり、一輪車の練習をしていて転倒した私よりもぶつかった先の柱を本気で心配したり。そんな人たちだったんです」