取材の日々を思い返す
さて、『PRESS』の原稿を頼まれ、改めて取材の日々を思い返した。なにより、2020年から2023年の4年間は、社会そのものがコロナウィルスに翻弄され、大変な時期だったが、個人的にも、この4年間は大きな出来事が続いた。長く住んだ一軒家から駅近のマンションに引っ越したことも決して小さなことではなかったが、さらに父の死、娘の出産で初孫が生まれたこと、そして父の1年後に母の死を迎えた。まさに死と誕生と死が繰り返された。
そんな時期に50人は軽く超える方々にお会いし、じっくりお話を伺い、さらに2年間の小田さんの全国ツアーのすべての公演地に同行。もちろん、小田和正さんにも事務所で定期的にお話を伺った。我ながら、「駆け抜けた」と言いたくなるが、現実は、もっと淡々と、もちろんクヨクヨと思い悩むこともあり、しかし楽しいこともあり……そんな日々だった。
この本の担当編集者の文藝春秋の伊藤淳子さん、それから前著の担当編集者のやはり文藝春秋の池延朋子さんからは、仕事上のアドバイスはもちろん、〈チーム小田〉というLINEグループをつくり、よくトークし、それが本当に楽しく息抜きになった。そしてそんな三人を「三姉妹」と呼び、折に触れ、本当にたくさんの相談相手になっていただいたのが、小田さんの事務所の吉田雅道さんだった。感謝してもしきれない想いである。
一通の葉書が届いた
その吉田さんが1999年に明治生命のコマーシャルに当時は一般的にはあまり知られていなかった「言葉にできない」をプレゼンしたことについては本に書いたが、とりわけ2001年には「秋雪君とその家族」の物語が大きな反響を呼んだ。その秋雪君のご両親から、文藝春秋宛てにお礼状が届いたことは、とても驚いた。その葉書には、こう書かれていた。
「昨年、追分日出子さんの『空と風と時と』を手に入れました。(中略)本文中の旧明治生命のCMに触れた場面で、秋雪といずみの学園の名を見つけた時、思わず声を出してしまいました。秋雪は小田和正さんの人生にかかわれたことがあったんだなあ…と、知ることができました」。さらにそこには、「2022年10月19日(秋雪生誕30年)小田さんのライブ、さいたまスーパーアリーナに私たちも居ましたよ」と書かれていた。
たまらなくうれしかった。小田和正さんの歌が聴く人の心に寄り添い、力をくれる。大仰なことではない、ほんの少し手を差し伸べてくれる、それだけでどれだけ救われることか。さらに歌は、人と人を結びつける。秋雪君のご両親からの葉書を拝読し、改めて実感したものである。
ともあれ、この本は、多くの方々に助けられ、お世話になった。2年間にわたる全国ツアーでは、各地のイベンターさん、バンド、ストリングスのメンバー、さらに老若男女入り混じる個性的なスタッフの方々にもお世話になった。
とりわけ、今回のNHKの番組のために、やはり全行程に同行した映像カメラマンの西浦清さんと大竹真二さんの撮影班(別称西浦班)に私も一員として加えてもらい、時に、公演後、一緒にお酒を飲み、息抜きさせてもらった。そんなこんな、人との縁でこの本はできたのだと、いまさらながらに実感している。空と風と時と、そして4番目の言葉は、やはり「ナカマ」だなと、そう思う。
追分日出子/千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。「カメラ毎日」編集部、週刊誌記者を経て、『昭和史全記録』『戦後50年』『20世紀の記憶 全22巻)』(毎日新聞社)など時代を記録する企画の編集取材に携わる。著書に『自分を生きる人たち』(晶文社)『孤独な祝祭 佐々木忠次 バレエとオペラで世界と闘った日本人』(文藝春秋)。
INFORMATION
「こんどこそ、君と!! 〜小田和正ライブ&ドキュメント2022-2023〜
足かけ2年、全49公演!小田和正の全国ツアーに密着!」
NHK総合、2月29日(木)午後10:00〜午後10:44/3月4日(月)午後11:50〜12:34