ひろゆき君が後日連絡をくれた理由
ひろゆき君は、私が想像していたのとはぜんぜん違う人だった。
訳のわからないIT用語ばかり話すとか、アニメやゲームのTシャツを着ているとか、いわゆるオタクっぽい姿を想像していたのだ。
「思っていたより普通の人だった」というギャップだけで、私の中の彼への好感度は高いものになった。まったくギャップとは便利なものだ。
そして、その手書きの名刺を覚えていたひろゆき君が、後日連絡をくれた。
ひろゆき君と結婚してから、このときのことをふと思い出して「そういえば、なぜ、私に連絡をくれたのか」と聞いてみたことがある。
「手書きでわざわざ連絡先を書いてきたから、そのぶんのコストを返さねばと思った」だそうだ。
その交流会のあと、少ししてから、私たちはよく一緒にご飯を食べる間柄になった。
そして、食事をしながら、いろいろな話をした。
ひろゆき君が、学生時代からずっと付き合っていて、結婚も考えていた恋人にふられたこと。そのときに泣いたこと。別れの原因は、ひろゆき君が彼女のつらさになにも気づいてあげられなかったこと。そして、彼女のほうから去ってしまったということ。
話を聞きながら、なんだか、ふられた原因が私と似ていると思った。
摂食障害のことを話し…
そして気づくと、私もひろゆき君に自分のことをすっかり話してしまっていた。
最近、恋人にふられたこと。恋人から「自分のことしか考えていない」と言われたこと。そんな自分を変えたいと思ったこと。そのために、ずっと抱えてきた摂食障害を治したいと思っていること。
ひろゆき君は、驚いた様子もなく、ときどきうなずきながら静かに聞いてくれた。
そして、摂食障害のことについて、いくつか私に質問をした。
どこの病院に行くつもりなの? とか、いまどんな症状があるの? とか。
それまで付き合った人には、なぜか摂食障害のことは話せなかった。
話を聞いた人が、離れていってしまうのが怖かったのだと思う。
でも、ひろゆき君は違った。
彼に話したとき、この人は離れていかないんだな、話しても大丈夫なんだなと心から思えた。自分の正直な思いを聞いてくれる人に、初めて出会った気がした。
そして、この出会いは私に、目の前の現実を変えていく力をくれた。
ボタンの掛け違いをひとつひとつ直していく、そんな勇気をもらったのだと思う。
これが、摂食障害がはじまってから、治療を受けることになるまでの話。
次は、そもそもどうして私が摂食障害になったのか、それを考える手がかりとして、私が育った家庭のことについて話してみたいと思う。