思い返せば、忙しくて会えないと言われることもよくあった。
でも私は、彼のつらさにも、そんなに痩せてしまっていることにもまったく気づいてあげられなかった。彼のやさしさを当たり前だと思い、彼をいたわるどころか、会えないことに不満を言ったりもしていた。
不安のせいで過食嘔吐が悪化
彼が去っていったのは当然だった。
このころ、過食嘔吐はいちばんひどくなっていたと思う。会社を抜け出し、コンビニで食料を買い込んで、一気に食べてトイレで吐く。多いときで、1日に5回はそんなことをしていた。そのうち、夜も眠れなくなった。
人は、眠れなくなるとおかしなことを考える。
会社のみんなは私のことが嫌いなんじゃないか。
あの人のあの言葉はじつは私を責めていたのではないか。
そんなことを想像して、シャワーを浴びながらわあわあ泣いた。
毎日電車に乗って会社に向かおうとするものの、途中で気分が悪くなり、たどりつけないことも出てきた。会社を休むことも増えた。
もしかしたらこのまま働けなくなって、いつか野垂れ死ぬのかな……。
死んじゃったほうが楽かもしれないとすら考えるようになっていた。
やっと手に入れた仕事と収入を失うかもしれないことが怖かった。
まだがんばりが足りないのだろうか?
でも、私の心と体はすでにくたくただった。
不安になると、また、たくさん食べて吐いた。
過食嘔吐だけが、まるで悪友のように、いつも私のそばにいて「吐いたら楽になるよ」と教えた。でも、吐いても、吐いても、問題はなくならなかった。
手書きの名刺とひろゆき君
ひろゆき君と初めて出会ったのは、その最悪な状況の真っただ中だった。
ある日友人に、異業種交流会に誘われて参加した。そこにひろゆき君が偶然やってきたのである。
彼は「2ちゃんねるの管理人」としてすでにIT業界では有名人だったから、彼の周りには人だかりができていた。
私と一緒に来ていた男性の友人が、ひろゆき君に声を掛けてほしいと頼んできた。
持ってきていた名刺はすでに全部配ってしまっていたし、そんな有名人に話しかける勇気もなかったから、最初は断った。でも、「SNSでつながってるんでしょ」「女の子から声をかけたほうが向こうだって喜ぶよ」などとせがまれ、しぶしぶ、名前と会社名を小さな紙に書いて、ひろゆき君に渡した。まるで時代遅れのナンパみたいで、すごく恥ずかしかった。
「あー、すみません。僕名刺とか持ってなくて」
と、ひろゆき君は言った。
「そんな、気にしないでください。私もこんな手書きのメモですし……」
私たちの最初の会話はそんな感じだった。