『ヴェルクマイスター・ハーモニー 4K』が問いかけるもの
──『ヴェルクマイスター・ハーモニー 4K』も、根本的な問いを投げかけます。天文学を趣味にする主人公の青年ヤーノシュが魅せられるのは、田舎町の外からやってきたサーカスの、見世物の巨大な“クジラ”。宇宙と“クジラ”が象徴する、自由な想像力の顛末を描きます。
タル この映画をつくった当時は、おとぎ話としてとらえていました。ヤーノシュは郵便配達をしながら、宇宙に思いを馳せる。いわば、“永遠”というものを夢見ていると思うのです。もうひとり、音楽家が登場しますが、彼は楽器から出てくる音色がクリーンなものであってほしいと願っていて、これもまた“永遠”と関係しています。もうひとつ、“永遠”とつながっているのが、町の外、遥か離れた海からやってきた“クジラ”です。
ある意味でこの映画は、彼らがいかに負けたか、何を失ったか、ということを描いています。愚かさや、ポピュリズムという原始的な力が、どのように彼らの存在をなき者にしていくのかということについての映画、といえるでしょう。
おとぎ話のつもりでつくったが…
──町の人々はサーカスや“クジラ”など、外からきたものを恐れます。20世紀が終わり、21世紀が始まろうとする時期に、どんな思いでこの映画をつくったのですか。
タル いや、私たちが考えていたのは、タイムレスな映画をつくりたいということです。先ほど、おとぎ話のつもりでつくったといった通りです。しかし数年後に、それはリアルな、逃れられない現実になってしまったのです。
「現実」とはおそらく、9.11以降の、人々がそれまで以上に分断されていった世界を指しているのだろう。その延長線上にある21世紀の「現実」の過酷さを、今日の私たちは痛感しているはずだ。