伝説の監督の刺激的な言葉は、自身が手がけた傑作と共に、私たちの心を揺さぶる。名匠たちが賛辞をおくる鬼才であり、7時間18分の大作『サタンタンゴ』をはじめ、息のつまるような長回しや黙示録的なモノクローム映像で知られるタル・ベーラ。現在公開中の『ヴェルクマイスター・ハーモニー 4K』は、世界に衝撃を与えた2000年の作品にして、全編わずか37カットという異形の映画の4Kレストア版だ。
単独取材に応じたタル・ベーラ。鋭い眼光、その奥に柔らかさも秘めた表情、そしてインタビュー中の次のような言葉を、まずはお届けしたい。
後進育成は「エデュケーション(教育)ではなくリベレーション(解放)」
──今回の来日では福島でワークショップをされましたが、約4年半前に取材した際、ご自身は教師ではないとおっしゃっていました。知識を上から与えて評価する教育システムは“クソ”だ、と。にもかかわらず、後進の育成に励む動機は何ですか。
タル まず、できることならば、世界中のアートスクールを閉鎖させたいと思っています。なぜなら、教えられるものではないからです。教師がレクチャーをした後に試験をし、教師がいったことを繰り返せばいい成績をもらえるというのは、そもそも教育ではない。
私のゴールは、相手を解放することです。彼らは、自分自身の言語を見つけなければいけないし、自分のやり方を発見しなければならないし、世界を理解しなければいけません。いつも口にしているのは、まず人生を、そして世界を学び、理解してほしいということです。そうすれば自然と、撮影の仕方や自分のスタイルがあなたを見つけるだろう、と。もし人生というものを理解せずに何かをつくってしまったならば、そもそもの制作の理由がなくなってしまうのではないかと思います。
福島であれ、他の場所でのワークショップであれ、若いフィルムメイカーたちと向き合うときの私のゴールは、エデュケーション(教育)ではなくリベレーション(解放)なのです。